身体は腐っていくのです
孤独死と聞くと、どんなイメージを抱きますか?ほとんどの方が孤独死だけは避けたいと願います。その理由の大きい部分を占めるのが、死んだ後の身体が長く発見されない恐怖があります。腐って見つかるのだけは絶対に避けたいと望むのです。独りぼっちで死ぬことよりも恐れるのが、周りに気づかれずに身体がグジュグジュに崩壊した状態で見つかることです。孤独死がイコール「惨めな死」と言われる理由は死後の身体が腐敗して見つかる状況が多い事からくるイメージが強いのです。
死亡した状態で放置されると身体が腐る事は皆様ご存じです。どうして人間の身体は生きている時には腐らないのに死亡すると腐敗していくのでしょうか。亡くなると心臓が止まります。流れの止まった血液は身体の地面に近い部分へと溜まり「死斑」になります。血流が止まると細胞に酸素がいかなくなり、2時間程経つと化学反応が起こります。「死後硬直」と呼ぶ関節が動かなくなり筋肉が硬直します。そこから腐敗が始まります。死去後すぐに腐敗していく部位は胃や腸の消化器系です。本来は食べた物を消化する胃液ですが死亡後は自身の胃や腸を溶かしていきます。さらに放置していると腸内の細菌で胃腸の融解が進みます。その際に体内で発生するのが腐敗ガスです。このガスが血流の止まった血管内を進み、身体中の脂肪に反応し青色に変色させます。死亡して数時間はお腹に留まっていますが、圧が高まると口中や肛門から漏れ出します。その後全身の皮下の汗腺から匂いが発生し、こうなると全身が強い腐敗臭を放ち、傍に近づくのも困難な死体になってしまいます。
もう一つおぞましいお話をします。腐敗した死体にはハエや蛆虫などが大量に発生します。蛆虫が生まれるのはハエが死体に卵を産み付けるからです。部屋の中でハエなど見たことが無いと言う場所でも不思議と、どこからかコバエは入ってきます。ハエは1回の産卵で100個以上卵を植え付けます。蛆虫の孵化は数時間です。1日も経たないうちに眼球、鼻腔、口腔を始め身体中に蛆が湧き出ます。
孤独死のように誰にも見つからずに放置された状態になると、死体は腐り異臭が出て周辺住民が気づいた時には、まさに悲惨な状態になります。故人の住居が賃貸物件ですと、その後の特殊清掃が必要になり修復に200万円を超えることもあります。
元気に暮らしていたお婆ちゃんの孤独死でした。数時間で訪ねることが出来た距離感でしたので息子さん家族も一人暮らしに心配や不安はありませんでした。亡くなって3日は経っていないとの警察の見立てでしたが、室温や環境のせいか、もう腐敗臭が始まっていました。身体が腐る臭いは今迄嗅いだことのない特有の匂いです。検視後のご遺体を納体袋と言うビニール袋に入れてもジッパーの隙間から腐敗臭が漏れ出てきます。ジッパーの部分をガムテープで塞ぎ臭いを止めて棺に入れました。エンバーミング処理も考えましたが腐敗状況が進んでいて難しい状況でした。
対面した息子さんに「残念ですがお身体の状態がよくありません、ご家族の手で綺麗にして着替えさせる納棺式は難しいです」とお伝えしました。返答は「こんな状態になるなんて思いもしませんでした。このまま出来るだけ早く骨にしてください。その後で皆でお別れをしたいと思います」
あらためて消臭スプレーをかけた棺を冷蔵庫へ運び、翌日の一番窯へ入れました。