おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

暫くは納骨が出来ません

「四十九日の法要が終わりました」との連絡を頂きました。後祭り祭壇を引き取り片付けるのでご自宅へ向かいます。飾り壇の上にまだ遺影写真と骨壺が置いてありました。通常四十九日が終わり、しばらくするとお墓に納骨をする喪家様がほとんどです。何気なく「お墓に納めるのはいつ頃ですか」と尋ねてしまいました。田舎の実家に先祖代々の立派なお墓があると聞いていたからです。そちらに納骨だと話されていましたので伺ってみたのですが、思いもよらないお返事が返ってきました。


「お墓に入れるのが、なにか可哀想になってきました。こないだ見てきたのですが、墓地と言っても集落の共同墓所なのです。お寺や管理団体が手入れをしているわけではありません。当然、草ボウボウで野犬や近頃はイノシシも出るようです。なかには崩れた墓石も結構ありました。廃墟のような環境を見てきたら、あそこに、お骨を入れて一人にするのは、とても可愛そうで、なにか切なくなってきました」


納骨の時期に遺骨を手放すことを迷うご家族は結構多いのです。特にお子様を先に亡くされた親御さんは、しばらく経っても遺骨を手元に置いておきたいと願います。四十九日を過ぎても百か日や一周忌などの納骨のタイミングはありますが、手元から離すことに抵抗を感じるのです。大きな墓地に納骨した時に「あの子がどこにいるか分からなくなりそう」と言った母親もいました。お墓に納めてしまうと、どうしても故人を一人ボッチにするような気がしてしまう方は多いのです。


この頃はお墓が無いご家庭も多くなりました。お墓に入れたくないと言う考えの人も増えています。納骨の場所を決めるまではご自宅にお骨を安置せざるを得ません。遺骨をお墓に納めないで自宅に置いておく方も増えていて、手元供養という言葉が生まれました。葬儀屋のお仕着せの白い骨壺をそのまま置いておくと、いつまでもお葬式の記憶が残ります。仏壇がない現代のモダンな部屋に白一色の骨壺は違和感もあり長期間は置きづらいのです。可能なら他の家具と調和のとれたお部屋に馴染む、骨壺には見えない容器に移し替えたいと願う家族も増えています。ネットで手元供養のための家具調の骨壺を調べると多種多様の品が見つかります。


個人で購入された骨壺は収骨で使用した骨壺の比べて少し小さいかもしれません。焼骨の嵩を減らすためには、骨を袋に入れ上から少し押さえつけると簡単に崩れます。一部を粉骨にすると移し替えが楽になります。小さいインテリア骨壺に収骨したお骨の少量だけを移して残った骨はお寺の納骨堂へ納めるなり、粉骨にして海洋散骨や樹木葬に葬る方もおられます。


迷われている様子の奥様に話しかけました。
「お墓に納める時期に決まりはありません。いつまでも手元に置いておくご家族も多いのです。過去には『私が死ぬまでは主人のお骨を手元に置いておきます。私が亡くなったら一緒に納骨してください』と言われた奥様もおられました」


奥様のお顔がいっぺんに晴れやかになりました。
「それ良いですね。私が亡くなったら私の遺骨と、この主人の遺骨を一つの骨壺にあわせて入れてもらおう。そしてお墓に入れるように頼んでおく。二人一緒ならのあんな寂しい場所でも我慢できると思う」

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