おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

13人の殉死者に囲まれて

老人会で人気者のおばあちゃんのお葬式は友引の日に行われました。
友引は葬儀を行うのが嫌われます。
理由は、過去ブログの「友引は火葬炉が空いています」をご参照ください。
今回も出来るなら変更したかったのですが、喪主の仕事の関係と親戚の集まれる日が
その日しかなく、やむなく友引の日が葬儀日となりました。


老人会のお仲間が慣習を気にされると申し訳ないと、喪主様も気を使われます。


「友引人形を入れてあげましょう」


と提案し、喪主様も由来をご存じでしたので納棺時に取り出しました。
お布団の周りには幼稚園から高校生までのお孫さんが興味津津で作業を覗き込みます。
友引人形は「こけし」の形をしています。


「葬儀屋さん、それなあに」


「お人形です。友引の日にお葬式をすると、周りの人たちを天国に一緒に連れて行ってしまいます。代わりにこのお人形を連れて行ってくださいと、お願いします。」


幼稚園児が口をはさみました。


「それ、お人形じゃない、手も足もない、顔も変、おばあちゃんにお人形を持たせるなら、自分のバービーちゃんを持ってくるから入れてね」


たしかにこけしを人の代わりの人形に見立てるには少々無理があり、ごもっともなご意見 です。しかし、バービーは高価だからという大人の理由で却下されました。


「こけしの代わりに、ちゃんとした服を着ている人形を入れてあげたい」


子供たちの総意は変わりません。


「あれ、入れたらどうかな」


喪主様が提案したのが雛段飾りのお人形たちです


「母の形見に貰っても飾る場所が無いし、ごみに出すのは忍びないし、友引人形として、   おばあちゃんに持って行ってもらおう」


押し入れから次々と出てきたのは、笏を持った男雛と十二単の女雛を始め、それぞれの  お人形達です。大人の事情で親王飾りは取っておこうとなりました。
胸の位置に三人官女を並べました。真ん中の官女は眉がありません。既婚者だからです。
お腹の位置は五人囃子を並べました。今にも雅楽が聞こえてきそうです。
その下に随身です。警護の武官の呼び方ですが、現在では右大臣・左大臣と俗称で呼んでいます。左大臣の方が格上なので老人の姿をしており、右大臣は若者の姿です。
最後は仕丁の三人を並べました。「三人上戸(さんにんじょうご)」とも呼ばれます。
御所の雑用を司る者たちです。
合計13人の家来が、おばあちゃんの周りを囲みました。


老人会のご友人方がお棺の中を覗き込み


「こんなにたくさんのお友達を連れての旅だったら、友引だからと言っても私たちを一緒に連れていく余裕は当分ないわね」


今頃、13人のお供を連れた大名行列は、三途の川を渡り始めている頃でしょう。

×

非ログインユーザーとして返信する