おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

なぜか燃え残った千羽鶴

納棺式に伺います。お休みになっている故人の枕元に、棺の中へ入れて欲しい品々が並んでいます。故人が良く着ていたお洋服とか最後まで食べたがっていたお菓子とか、それぞれの思いを込めた品々です。そこに、大きな束の千羽鶴が置いてありました。一瞬「困ったな、今回はなんと言って断ろうか」と考えを巡らせます。


折り紙をたたんで折り鶴を作り、千羽作って糸で通したものを千羽鶴と呼びます。「鶴は千年」という言葉から縁起の良い数として千羽作る様になったと言われます。千羽鶴には病気快癒、長寿祈願、幸福祈願、災害祈願の意味が込められました。江戸時代より庶民の間で祈願成就の願いから作り始めたといわれています。また、近年では千羽鶴は平和のシンボルとなりました。原爆の子の像となっている佐々木貞子さんは原爆により2歳で被曝しその後白血病を患いました。生前に病気快癒の祈りを込めて折り鶴を一生懸命に折り続けていたというエピソードから「千羽鶴」が非核の象徴となりました。毎年、広島の原爆ドームには世界中から多くの千羽鶴が贈られており原爆の子の周りのガラス箱に手向けられて飾られています。


火葬場では棺に入れてはいけない禁制品と呼ぶ品々が決められています。爆発するペースメーカーを始め、ガラス類、金属類、多量の衣類、そして紙類です。紙は燃えるから問題ないと考える人が多いのですが、厚い本や写経の束そして千羽鶴などは大量の紙を燃やすことで火葬炉に異常燃焼が起きてしまうのです。分厚い本だと燃えにくくほとんどそのまままの状態で白く燃えた灰が残ります。多量の灰が残ると収骨に支障をきたします。千羽鶴も大量に紙を燃やした灰が山盛りに残りますから火葬場では禁制品にしています。沢山入れた紙類が作る焼却灰は細かく積もりお骨を隠します。白く被った灰をかき分けて遺骨を探す収骨作業は困難になります。


「ベッドの上で不自由な手で一日一羽ずつ作っていた」「孫が友達と一緒に作ってくれた」「お爺ちゃんの回復を祈りお婆ちゃんの生きがいになった」それぞれにエピソードが出てきます。しかし、大きな束を入れるのは不可能です。「「束から一房だけ外して、数匹をお顔の周りに置いてあげましょう」と誘導します。「残りの束は、お仏壇の横に下げて極楽との往復の乗り物にしてもらいましょう」と説きます。


今回も数匹をお顔の周りに散らして納棺して火葬場に向かいました。数時間後、火葬炉の扉が開きます。なんと頭蓋骨の脇に白い灰が鶴の形のそのままの状態で出てきました。通常ですと形のままで灰が残ることはあり得ません。これは奇跡です。


火葬炉の仕組みを説明します。近年の炉は有害ガスを排出させないために温度設定を800~1200度にします。これだけ火力が高いと約20分で人体は骨になります。火葬時間が数時間かかるのは、そのままでは熱くて拾えないお骨を冷ます時間が必要だからです。骨を冷やすために炉の内部に冷風を数十分巡回させます。内部では風が吹きつけるので紙類や衣類の焼却灰は形が崩れて山盛りの形になります。


火葬炉では形ある物がすべて燃え尽き、灰になることで永遠の別れを実感します。お骨の脇で、白い灰で出来た折り鶴を見つけたお孫さんが叫びました。
「この鶴さんに乗って、お婆ちゃんはお空に飛んでいったのだね」

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