おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

ご遺体と記念撮影は疑問

通夜式が終りました。弔問客やご親族もお帰りになった深夜のホールでの出来事です。お線香守りの親族の若者が数人棺の周りにいました。なにか騒がしいなと思い、式場を覗いてみます。なんと棺桶の蓋が外されて開いています。横たわった仏様のお布団が半分はがされています。そしてスマホを代わる代わる差し出して、ご遺体と一緒の記念撮影です。目をつむった白いお顔の横で、笑った顔でピースサインの自撮り撮影です。半分呆れながらやんわりと声をかけました。
「仏様を、静かに、休ませてあげてください」


手軽に撮影ができるスマホが普及した現在では、全員がカメラマンになりました。中にはマナー違反とも言える撮影も多く見受けるようになりました。厳粛で悲しみ溢れる葬儀場で不作法にカシャカシャと音が響くのです。身内のお葬式に参列している家族や親戚だからといっても、安易に全ての場面で撮影をしても良いわけではありません。できれば僧侶と葬儀屋に事前の許可を得てから撮影可能と考えてください。お寺様の読経の最中とか参列者の焼香中やお別れの棺を開けての対面の時などは避けて欲しいとお願いをしています。


お葬式の記録としてスマホで写真を撮るのが一般的になってきました。スタッフがよく聞かれるのは「ご遺体の写真を撮りたいのですが、大丈夫でしょうか?」です。本音を言うと答えにとても困ります。「写真を撮って良いか、それとも嫌か」の答えを伝える方は棺桶の中で眠っている故人様だからです。他人の葬儀屋が答える問題ではありません。それでも答えを求められるときは「お写真はご自由です。ですがご遺体を撮影する時は仏様にお許しを得てください」とやんわりお断りします。


生きている時であっても勝手に写真を撮られるのを嫌だと感じる方は多いのです。まして冷たい遺体となって目をしっかりとつむっている写真を喜んで撮って欲しいと思うはずはありません。もし自分が死体になった時と考えたら「止めてほしい」と思うはずです。ご遺体の撮影はご遺族に判断を任せますが、個人的には死体を撮影するのは品性の低い行為に思われます。故人様の尊厳を守ることよりも自分の欲望を優先して想い出を作るほうが大事だと思う方がご遺体の撮影をされるのです。


エンバーミングを行うと、死体には見えずまるで眠っているようなご遺体になります。周りを沢山のお花で飾ると「写真に残しておきたい、参列できなかった方へ見せてあげたい」とスマホを構えるご家族も多いのです。しかし、いくら綺麗に仕上がっていても目を閉じた写真を永遠に残したいと思う方はいないと思います。故人が望んでいる、残して欲しい写真は祭壇に飾ってある素敵な顔の遺影なはずです。


お葬式は普段あまりお付き合いのない親戚一同が顔を見せ集まるイベントです。めったにない機会ですから告別式の前や、出棺する前、葬儀を終えた後などに親族が集まり記念写真を撮ることが良く行われます。昔はプロのカメラマンを葬儀会場に呼んで、祭壇の前で集合写真を撮る習慣がありました。写真を撮る場所は祭壇とご遺体を納めた棺の前で撮る機会が多いようです。祭壇前に全員が立つと飾ってあるせっかくの遺影写真が隠れてしまいます。祭壇から遺影を外して写真額を真ん中の人が持つようにして並ぶと、故人を偲ぶ記念の集合写真が出来上がります。

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