おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

安置の後は大事な枕飾り

ご自宅に亡くなったご家族を安置された記憶のある方は、葬儀屋さんが故人の寝ている枕元に木製の台を組み立て、仏具を飾り付けた様子を思い出されるはずです。白い布で覆った台の上に三具足(みつぐそく)と呼ばれる香炉、花瓶、燭台の三種を飾り、お鈴と特別に作られた一膳飯(山盛りのご飯の上に立てた箸を刺した食事)と呼ぶお茶碗、又は枕団子と呼ぶ小さな白い団子を数個置いたお皿を置きます。


見た目の良い一膳飯を作るにはご飯茶碗を二つ使います。下になる茶碗にご飯を盛りつけ上部を平らにします。上になる茶碗の内側を水で濡らし崩れないように強く盛りつけて重なる部分を平らにします。下の茶碗と重ねてそっと上を持ち上げます。これで綺麗な一膳飯が出来ます。茶碗にご飯を高く盛る理由の一つに故人の魂が現世を振り返った時、高く盛られたご飯を見て「空腹の未練を残さずにあの世に旅立てる」と願う家族の思いがあります。飾った枕飯や枕団子は亡くなった人があの世への道筋の途中で食べると考えられているので、出棺時に半紙に包み棺に入れます。


花瓶にはシキミか一輪の白菊を活けます。これらの花を枕花と呼びます。特にシキミと言う植物は動物が避ける毒性を持つことから、魔除けの意味でよく使われます。


無事に故人を送り出すためには基本的なルールがあります。1つ目は蝋燭の火を絶やさない決まりです。枕飾りで灯される燭台には故人の魂を導く目的があります。「冥界の道は真っ暗で先が解らないので迷う」とされているため納棺までは火を消しません。一本立ちの蝋燭では倒れた時に火事の心配があります。傍に人がいない時でも10時間以上安全に燃えるような蝋燭を使います。ガラスの入れ物に入った「安全コップローソク」とか、菊の形に仕上げた長時間燃焼ローソクを使用します。


蝋燭の火と同様に線香の煙も常に出しておくのが枕飾りの決め事とされています。線香の煙には他の邪悪な霊から故人を守る意味もあります。又ご遺体の保冷が困難な時代は腐敗臭を消す目的でも使われました。天井に一筋に昇る線香の煙にはこれから目指す極楽の道を指していると言われています。昔は一本線香の煙を絶やさないために、深夜でも遺族が交代で寝ずの番をして見守る風習がありました。今は10時間以上、安全に長時間燃えてくれる「渦巻線香」を使い休んでもらいます。


枕飾りは故人が眠る枕元に置く祭壇です。お通夜や葬儀式で設置する祭壇とは異なり「仮祭壇」と呼ばれます。簡易的な祭壇をいち早く設置するのは、死者を無事に旅立させる目的があります。亡くなって直ぐに側に置くことで「死亡直後の煩悩にまみれた故人の魂から食欲や物欲を浄化して極楽への成仏の道筋が示される」との考え方からです。


枕飾りは、亡くなった魂にとって重要な役割を担う祭壇なのです。簡素化された近年では枕飾りや枕経の儀式を省略するケースが増えています。出来れば亡くなった人と向き合う大事な時間を充分に取る為にも、枕飾りを用意する時間は無くしたくないと感じています。


本日も病院から搬送された亡骸の枕元で枕飾りを準備しています。ご家族が周りに集まり「おかえりなさい」「やっと帰れたね」「帰りたがっていたお家だよ」と呼びかけます。お坊様が到着しました。臨終勤行(りんじゅうごんぎょう)が始まります。

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