総額20万以上が煙になった
死因は肺がんでした。
入院中も看護師さんの目を盗んでは、煙草を吸いに逃げだして怒られていたそうです。
「愛煙家と言うより、ニコチン中毒と言ったほうあっている」
「死ぬまで煙草を吸っていたから、幸せな大往生かも」
「止めたらと皆が注意しても言うことを聞かない、しょうがない親父だった」
お葬式の前に家族が大きな袋を下げてきました。
「これを、棺に一緒に入れてください」
中身は煙草のカートンでした、20カートンありました。
「親父の遺言です。俺が死んだら、花じゃなくて煙草を入れてくれ。
煙草に埋もれてあの世に行きたい。煙草を吸いながら三途の川を渡るから」
可燃物ですから副葬品として納めるのは問題ないのですが、セブンスターは一箱510円、 一カートンで5100円 20カートンで10万円を超える金額です。
内心もったいないなと思う気持ちも生まれましたが、家族の願いが最優先です。
ところが、煙草はこれだけでは無かったのです。
故人の愛煙家は友人達にも有名だったようで参列者が次々と煙草のカートンを持って現れました。
「葬儀屋さん、遺言で言われた。これお供えだから、棺に入れて」
「香典の代わりに煙草を持ってきてくれと生前に言われていた」
カートンの合計は40個を超えました。総額20万円以上です。お別れの時間です。
「吸いやすいように開けてあげよう」
我々スタッフ、家族、参列者、その場の全員でカートンを破り、箱を開けて、煙草一本一本を出し、棺の中に納めていきます。
一箱20本入り、一カートン10箱、それが40カートンです。合計何本の煙草になるかの計算は皆様に任せます。
煙草の枕、煙草のお布団、故人の全身が煙草で埋もれました。圧巻されました。
火葬場に着き、私は職員さんに、そっと囁きました。
「副葬品として煙草が少し入っています」 「了解、問題ないよ」
でも、本数が8000本も入っているのは教えませんでした。私は火葬炉のスイッチの入った後、心配になって、そっと煙突の煙を見上げていました。