おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

葬儀屋の出番はまだです

早朝に電話が鳴りました。「どうも死んでいるみたいなのだが、葬儀屋さん来てくれるかな」自宅介護を長く続けていて、いつ亡くなっても不思議ではないと言う状況の家族がいる場合、万が一の時にこのような電話がかかってくることは珍しくありません。その時に必ず聞き返す内容があります。「お医者様には、もう見せていただけましたか」です。「まだです」と返事が返って来ると「お医者様から死亡宣告を受けてください。そして死亡診断書を貰ってください。そうしないと葬儀屋はご遺体に触ることが出来ません」と答えます。


自宅で家族が亡くなった場合、持病や介護などでかかりつけ医(主治医)がいる場合は、まずその医師に連絡をとります。基本的には診察後24時間以内に治療した病気で死亡した場合は、改めて診察しなくても死亡診断書が交付されます。 最後の診察から24時間以上経過している場合でも、生前に診察や治療をしていた場合は、問題なく死亡診断書を書いてくれます。自宅看取りを可能にしている高齢者専門のかかり付け医の中は、臨終や看取りに間に合わなくとも、臨機応変対応し死亡診断書を記入してくれる場合が多くなりました。


大騒ぎになりかねないのは、シロウト眼にも明らかに死亡していると思われる状態のご遺体を家族が発見した場合です。死亡後の時間が経ている場合とか自殺やお風呂場の事故などでどう見ても亡くなっている場合は、お医者さんを呼んでも死亡診断書は書きません。


この場合は119番に連絡し状況を話します。救急隊が蘇生の可能性があるかもしれないと判断した場合は病院へ運んでくれます。しかし、心肺停止で瞳孔も拡散し冷たくなっているなどで死亡が確認できる場合には、救急隊員は何もせずに直ぐに不審死として警察に連絡します。そして何台ものパトカーがサイレンを鳴らしながら到着します。警察が介入するのは、死亡した原因が病死なのか自然死なのか、又はそれ以外の事件性の疑いがもたれる死因なのかを追求するためです。警察官の中の検視官が調べて死因が明らかでない場合には行政解剖が行われます。事件死の疑いがある場合は司法解剖になります。警察が入ると必ず家族は隔離されて事情聴取されますので「犯人扱いされた」と思う人が多いのですが、これは死因を特定するために行う大事な作業なので協力してください。


突然亡くなっている家族を見つけた時に、周りが絶対にやってはいけないことはご遺体を動かすことです。家族の立場からみたら汚れているご遺体の状態を整えてあげたいと思ってしまいますが、警察到着前にご遺体を動かしたり着替えさせたりしてしまうと証拠隠滅をしていると誤解され、その後何回も聴取と確認が行われ、精神的負担が大きくなります。


不審死は監察医の検視の為に警察へ運ばれます。しかし中には、自宅での検視や鑑識調査で事件性が無いと判断される場合もあります。「葬儀屋さんに連絡しても良いですよ」と警察官が伝え、その段階で死体検案書が発行されますから、そこで葬儀屋の手配をしてください。


葬儀屋への連絡は亡くなっているのを見つけた直後でもかまいませんが、死亡診断書か死体検案書が発行されていない場合は手を付けられません。万が一、ドライアイスをあてるなどの行為をしてしまうと死体損壊罪になる可能性があるのです。死体損壊遺棄罪(したいそんかいいきざい)とは、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し遺棄し、又は領得する犯罪(刑法第190条)になり法定刑は3年以下の懲役です。


葬儀屋がご遺体に触れることが出来るのは、キチンと死亡宣告が交付された後なのです。

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