病院へお迎えに行き病室のベッドか霊安室のストレッチャーの上で初めて故人に対面します。事故や事件そして孤独死などの不審死の場合は監察医や警察署の霊安室でお目にかかります。もちろんご自宅のお布団の上で安らかに横になっている幸せなご遺体にお会いできる時もあります。この様に亡くなったばかりの死体に対面した時に私のような葬儀屋が最初に考えることがあります。それは「故人様のお身体の尊厳をどのように保つか」という重要な問題です。

故人の尊厳を守るとは、ご遺体のお身体を安全にかつ最適な状態で保つ作業を行うことです。ご遺体は時間の経過と共に変化していきます。そのままにしておくと体液が流れ出し、腐敗が始まります。致し方ないことですがキチンと止める必要があります。お身体を生前と同じように保つことは、衛生面や視覚、そして臭いの面からも大切な作業なのです。

病院では死亡後に看護師さんのエンゼルケアがご遺体に行なわれています。ほとんどが清拭されて問題は無いのですが、介護施設や自宅医療の場合は、お身体に点滴チューブや廃液ドレーンなどの医療器具が付けられた状態も見受けます。その場合は器具を抜去します。

抜去後の身体から血液が漏れる事や、頭部の外傷で耳や鼻から血が出ている場合もあります。食道静脈瘤が破れた死体は喉からの血がいつまでも吹き出しました。このような場合は血止めのゼリーを注射器で注入して出血を止めます。臨終時にオムツや体内に尿や便が溜まっている場合があるので取り除きます。肛門に脱脂綿を詰め便の漏出を防ぎます。必ず新しい紙オムツに履き替えてもらうのは尊厳を守るために必要な作業なのです。

口から便臭がする場合は食道や胃を圧迫して口腔や鼻腔内の吸引を行います。喉の奥に専用のゼリーを詰めて臭いを防ぎます。口腔内の臭気を防止するために口腔ケアを行います。歯ブラシやガーゼ、消毒用アルコールなどを用いて顎の硬直が始まる前に綺麗にします。

看護師さんが処置をされた後も、目や口が開いてくることがあります。目が開く時は瞼(まぶた)をじっと押さえてみると閉じることがあります。それでも開くようなら目薬を差して乾いたまぶたに潤いを持たせ改めて閉じさせます。そこまでしても硬直で開いてくる場合はアイプチ(二重瞼をつくる化粧品)を使用するとくっつきます。口が開いたときは、顎の下にタオルを挟みます。死後硬直まであてて置き後で外すと口が閉まった状態になります。

ドライアイスの位置は腐敗が始まる下腹部から置いていきます。下半身を冷やすことで臭いの防止にもなります。あまり手元や足元などに近い部分を冷やすと皮膚が黒くなってしまいます。お顔周りも冷えすぎる凍傷死体のようになりますから気を付けて作業します。

男性に限らず女性もヒゲが伸びてきます。皮膚の水分が無くなり乾燥すると毛穴に埋没していた毛が現れて伸びたように見えるのです。剃刀をあてるか電動ヒゲ剃りを使用し綺麗にします。納棺式の前に再度、故人のお顔にエンゼルメイクと呼ぶ「死に化粧」を行いますが、その注意点は又の機会のブログに綴りましょう。

故人と対面したご家族や参列の方々が、不愉快な思いにならないために、そして一番大事な要素の「故人の尊厳を守るため」に臨終直後にお身体に行なう大事な作業があるのです。