お一人様が遺言した葬儀
故人は70代後半の女性のお一人様でした。教職に就いていたと聞きました。生涯独身を貫きました。両親や家族そして親戚関係もすべて亡くなっていて一人の旅立ちになることは覚悟されていました。一軒家にお住みでしたので、それなりに資産はあったようです。高齢で身体の衰えを感じた時、しっかりとした準備を進めて私共にお葬式を頼まれました。
お葬式のご相談を受けた時は弁護士も付き添っていました。公正証書で作られた死後事務委任契約書も持参されていました。弊社がお手伝いするのは、亡くなった連絡を受けたらお迎えに行き、御着替えと納棺をして火葬場に運び、骨上げをして遺骨を送付する一連の流れです。すべての前払いを済ませて「いざと言う時はよろしく」と静かに笑われました。
二年程経ったころ弁護士さんから連絡が入りました。
「ご自宅で死去されていますから、御着替えと安置をして明日火葬場へ運んでください。火葬後の焼骨は遺言通りの執行でお願いします」
棺桶を積み込みご自宅に急ぎました。玄関には暗証番号を押す数字キーがついています。電話で番号を聞いていたので開錠して室内へ入りました。シーンと静まり冷たい空気を感じます。どなたの姿も見えません。奥まった和室に布団が敷かれ、ご遺体が寝かされていました。枕元に封筒に入った死亡診断書が置かれていました。お身体は綺麗に清拭されています。白装束に着替えてもらいお棺に入っていただきました。安らかなお顔に安心しました。言われたことは済ませましたがこのまま帰って良いのか迷いました。その時玄関が開き、訪問看護の看護師さんが花束を持って入ってきました。お互い名乗り、棺の脇で少しお話をします。
身体の動きが不自由になってから、何度か入院を勧めたそうです。そのたびに「ここで死なせて」と哀願されたと話してくれました。看護師の二日に一回の見回り、一週間に一回のかかり付け医の訪問医療、ケアマネが作成したヘルパーさんの巡回で見守ったそうです。特にご自身で探した、一人での自宅療法と一人で最期を迎える準備を許してくれた、かかり付け医と知り合えたのが、遺言を通りの最期を迎えられたことに繋がったそうです。もしかしたら孤独死として自宅不審死になりかねない状況なのに、問題なく死亡診断書が直ぐに発行されていたのに納得がいきました。
枕元に置いてある死亡診断書を役所に届けて明日の火葬許可書が発行されました。以前は家族の印鑑が必要でしたが、現在は法律が改正されて不要です。午後の最期の火葬炉に私だけが立ち会い火葬を行ないました。身内以外の第三者が立ち会い収骨することで問題になるかもしれません。万一のトラブル防止にそなえて故人は委任状を作成していました。委任状の内容は「遺体引取り、役所手続き、火葬業務の一切を葬儀社に委任する」というものです。懸念していた問題も起きずに無事に火葬され、私だけでお骨を拾いました。
埋葬許可書を受取り郵便局に向かいました。骨壺をしっかりとテープで止めて動かないようにプチプチで巻いて窓口に出します。ヤマトや佐川は遺骨の受け付けは不可能ですが、ゆうパックだけはお骨を送ることが出来ます。遺言で言われていた送付先へ郵送しました。
後日ご自宅が売却され更地になって売り出されているのを見かけました。遺言には「資産売却後の残額はお世話になった学校に寄付します」と書かれていたそうです。