生活保護世帯のお葬式は
火葬場の前室でゆっくりと炉内に入っていく棺を見送ったのは、福祉課の職員と私の二人だけでした。故人は生活保護を受けていました。数日、姿が見えないことに気がついたご近所が民生委員に連絡をとり、お部屋で倒れている故人を発見しました。簡単な検視が行なわれ、警察経由で福祉事務所から葬儀屋に生活保護世帯のお葬式の依頼が入りました。
生活保護を受けている方のお葬式は民生葬とか福祉葬とも呼ばれます。生活保護法第18条に基づき、生活保護を受けている世帯の家族が亡くなりその葬祭費用を出すことができない場合、自治体からの葬祭扶助の範囲内で出来るお葬式を出します。政教分離の原則から自治体は宗教行事を行うわけにはいきません。お寺を呼ぶ宗教儀式を行わない最低限のお葬式となります。搬送、ご安置、納棺、火葬、お骨上げという直葬の流れです。自治体によって変わりますが、一件当たり約18万円前後が請け負った葬儀屋に支払われます。
当然、税金でまかなうお葬式の内容は条件が厳しいものになります。安置のお布団や白装束、そして棺桶は最低のランクが使われます。最期の別れ花も色のついた花を使うことは許されません。白い菊で5本程と決められています。以前は遺影写真も白黒のモノクロ写真で製作すると決められていました。カラー写真は贅沢だとみられ禁止されていたのでした。
生活保護を受給されている方が亡くなると自動的に税金で行われる福祉葬で葬祭扶助が認められるわけではありません。結構、扶助決定までにハードルが高いのです。故人が生活保護を受給していても、葬儀費用を支払う預貯金などある場合は福祉葬の認可が下りません。また全額を支払うことが出来ない場合には、不足分のみに葬祭扶助が支給されます。
一人暮らしの生活保護の方が亡くなると、役所は戸籍を辿り扶養義務者である子、父母、祖父母、孫、兄弟姉妹、叔父伯母、従兄弟に連絡を入れます。その人に葬儀費用を支払える経済状況があると判断されると葬祭扶助は認められません。税金の使用を抑えるため、生活保護受給者が亡くなると、役所と警察は、とことん扶養親族を探し当てていきます。
突然、貴方の所にも今まで知らなかった遠縁の方の葬式依頼が役所から、かかってくることもあるのです。ほとんどの方は「今までお付き合いも無かったので、関係ありません。そちらで行なってください」と答えるようです。お葬式を任せたので、それ以上の問題は無いだろうと思われると思うでしょうが、実はその後も大変になります。自治体がお葬式をするので、遺品整理も役所がやるだろうと考える方が多いですが、故人の死去以降は何もしません。関係者に故人の住居の片づけや事務作業と次々と難題が押し寄せます。これをしないためには、扶養義務者は手続きを踏んだ相続の放棄を宣言する必要があります。
又、故人が入居の際の契約書に記入された連帯保証人には退去の責任が降りかかります。
生活保護世帯の財務整理には、マイナスの要素も多々あり、連絡を受けた親戚が簡単にお葬式や相続を引きうけてしまうと、大変なことになりかねないのです。「一応親戚でもあり、可愛そうだからお葬式を出してあげ、住んでいたところを見に行って少しだけ遺品整理をしてあげよう」などと考えて勝手に行ってしまうと、相続放棄が認められなくなります。
令和4年度は全国で164万世帯が受給者です。中でも高齢者世帯が年々増加しています。親戚からの助けの手が差し伸べられない寂しいお葬式が今後も増えるようなりそうです。