おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

お葬式を知らない喪家様

始めてお葬式を行う喪家様のお宅です。打ち合わせが始まります。ある程度のお年を召した方ですと葬儀屋としても「この人は常識程度のお葬式の知識は持っているだろう」と思い式進行の話を始めます。ところが、この頃はお葬式の知識がほとんど無い方が増えてきているのです。大概の人は一回ぐらいお葬式の参列したことがあると思います。喪主として葬儀屋との打ち合わせは初めてでも、お葬式の流れぐらいは常識として知っているのだろうと思いながら打ち合わせをすすめるのですが、話している喪主様が、それすら一切記憶に無く知らないと言われると、どこから話を進めようかと迷うことになります。


「お葬式の経験が無いです」こう切り出されました。心の中で「本当ですか」と突っ込みたくなりますが話を聞いてみると、こういう人もこれから多くなるかもしれないと思うようになりました。本人が小さい頃にお葬式に出たことがあると答えてくれましたが、物心がつく前でしたので記憶に無いそうです。幸せなことに家族や親戚にも死去した方が今までいなかったとも話されました。会社勤めの間もお付き合いの中でお葬式の参列は無かったそうです。そしてここ数年のコロナ過と家族葬の普及で、遠い親戚や、近所、友人のお葬式にも参列できなかったのです。これが、年配者でもお葬式の経験が無い理由でした。


やむなく、順番に確かめていきます。「お寺様はどうなさいますか」「適当に選んでください」「そう言われてもいろいろな宗派がありますが」「それでは、お布施のあまり高くないところにしてください」「ご近所に浄土真宗のお寺があります」「そこにします」
やっとお寺が決定します。「枕経に来てもらいます」「枕経とは何ですか」「亡くなった人が迷わず旅立つことができるよう祈り、仏様の弟子になれるようにする御経です」


お寺様が来る前に一連の流れの説明に入ります。当然お布施の相場も伝えます。お通夜や告別式との言葉はさすがに知っていましたが、具体的な内容は初めて聞くようでした。


「火葬場から帰ってきたら初七日法要を行ってもらいます」「初七日とは何ですか」ここであらためて初七日から七日毎と四十九日の満中陰法要の説明を行います。ここまで随分時間がかかりましたから「詳しくはお寺様とご相談ください」と半分逃げにかかります。四十九日の法要の段取りとか、塗りの位牌、そして仏壇購入などはお葬式の終わった後でも十分時間が取れるからです。


その前に必要な死亡届の記入とか様々な決め事をしていく途中に喪主様がポツンと驚くことを言いました。「焼香はどうやるのですか」たしかに、お葬式に一回も行ったことがない方は当然される質問です。喪主様に恥をかかせることは出来ません。実技研修を始めます。


ほとんどが家族葬になった現在はお通夜や告別式に行く経験が極端に減りました。ある程度の年齢なら一回くらいはお葬式に参列した経験があると思っていましたが、この頃は初めてのお葬式だと言う人も出てきています。この様な方は確実にこれから増えるでしょう。


お葬式をする意味や葬儀仏教の流れ、せめてご焼香の作法などは社会知識として学校で教えるか、就職セミナー等で教えても良いと思います。そしてお寺のお坊様もお葬式で御経を唱えるだけではなく、一連の儀式の流れの意味をお話しすることも必要だと思います。

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