おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

育てた花に囲まれた仏様

皆様がイメージをするお葬式の式場とは、正面に白木祭壇が置かれ、両側に名札を立てた供花を飾って彩りを添える会場だと思います。しかし、この頃は仏式でも祭壇を無くしてしまうとか、小さな掛け軸を飾るだけの省略化が進んでいます。白木祭壇にかわり人気が出たのが花祭壇です。中でも生花をふんだんに使ったものは生花祭壇とも呼ばれます。


始めは白菊だけで模様を作る生花祭壇が主流でした。次第に菊だけでなく色とりどりの花も使われるようになり、さらに洋花なども取り入れてデザイン性の高い祭壇が造られるようになりました。華やかな生花祭壇は、地位のある方や著名人などの豪華なお葬式でよく見られていましたが、近年は家族葬等の小規模なお葬式でも取り入れられています。


生花祭壇は白木祭壇と違い宗教色が消えるため、どのような宗派の方でも無宗教の方でも使えるのがメリットの一つです。生花の量を増やすと、どうしても高価になりますが、この頃は生花と見間違えるほどの造花を用いた花祭壇もあり、生花と混ぜるとほとんどの方には見分けられません。見た目は豪華ですが実は安価な花祭壇も作れるようになりました。


伺ったお宅は、路地奥の小綺麗な一軒家でした。入口の小道から庭一面に植木鉢が並び、色とりどりのお花がそれぞれの植木鉢に咲いていました。毎日一つ一つのお花をかわいがり丁寧に、お手入れをするのが日課だったそうです。倒れた当日も植木鉢の水やりの最中でした。お花が大好きだった奥様が今回の仏様です。祭壇のお話が出た時にご主人が


「家内が世話した花で祭壇を飾れないかな」と提案してきました。
良い提案だと思い、出入りの花屋さんに相談すると、あまり乗り気ではありません。


「植木鉢の花は小さくて見栄えが悪く、祭壇花には不適当です」
その通りですが「何とかしてあげようよ」と説き伏せ2トン車で重い植木鉢を百個近く運び出しました。一つ一つはそんなに重くないのですが、さすがトラックにいっぱいの土の詰まった植木鉢は重労働です。祭壇に並べてみましたが、お花屋さんが指摘した通り、植木鉢だけが目立ってしまい、まるでレンガを積み上げた祭壇のようになってしまいました。


「ちょっと待っていてね」
こう言うと私は、喪主さんの待つご自宅へ車を走らせました。


亡くなった奥様の趣味は、お花を育てることと、もう一つ、咲いたお花を水彩画で描くことでした。ご自宅に丁寧に描かれた絵が何枚も飾ってあるのを思い出したのです。葬儀場に何枚もの絵を持ち帰り、植木鉢を隠すように並べました。


ご近所やご友人たちが通夜の会場に集まり始めます。祭壇を見たどなたの口からも、驚嘆の声が上がりました。


「素敵な祭壇」「亡くなった彼女が一番喜ぶ祭壇よね」「育てたお花に囲まれて嬉しそう」


喪主様が私に囁きました。
「この妻の魂が入った植木鉢を、大事にするのをこれからの生きがいとして、残された人生を送ります」

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