おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

故人の住民登録はどちら

電話口のお客様は迷われていました。「先ほど、母親がお世話になっている介護施設から、亡くなったと連絡がありました。我々は少し離れた地方に住んでいるのでこれから向かうのですが、介護施設のあるところでお葬式をした方が良いのか、連れて帰って私の住むところでお葬式をした方が良いのか、事情が解かりません。葬儀屋さん、教えてください」
離れて暮らす介護施設で、家族が亡くなった後の対応について悩む家族は多いのです。


高齢者との別れは突然です。老健や終末期介護の施設では利用者が危篤状態や臨終が近づいていると判断されると早めに家族に連絡をするようにしています。しかし家族の到着が間に合わずにスタッフだけで看取られるケースは結構多いのです。家族が居住している近隣にある施設なら駆けつけて看取りの可能性もありますが、いろいろな事情で遠方の施設にしか入居の空きが無く、死に目には会えない覚悟で高齢家族を移動させる方も多くいます。


施設で利用者が亡くなった場合は嘱託医師や医療機関の医師に死亡診断をしてもらえます。この死亡診断書を受け取った時点で、火葬とお葬式を施設の地域で行なうか、または家族の居住地に連れて帰って火葬とお葬式を行うかの判断が待ち受けます。当然、お葬式の発注も施設の場所にある葬儀屋にするか、家族の近所の葬儀屋にするかの決断が必要です。


高齢者の晩年や終末期に、一般的に老人ホームと言われる施設に入居する時は、現住所を施設の住所に移転をしなければならないルールがあります。介護保険適用条件等の為です。こうなると家族の居住地と故人の現住所は別れてしまいます。介護施設入居者の住民票は家族の居住住所と違うのです。この事情が亡くなった時に大きな金銭負担を招きます。


それが火葬料金です。亡くなった方の住民票の届け先で火葬料金にずいぶん差があることをご存じでしたか?ほとんどの火葬場は自治体が管理する公営施設です。火葬料金は日本全国一律に設定されているわけではありません。その市に住民票があれば、安価な料金で火葬できますが、市外の死者はとても高価になるのです。一例をあげるとその市に居住している市民は無料ですが、市外の死体は10万円の火葬料を取られる市町村もあります。不幸にも旅先での死亡や、住民票を移していない介護施設で亡くなった場合、思いもよらぬ法外な火葬料金が発生するのです。


結論から言うと老健やホスピス、そして終末期を過ごす介護施設で亡くなった場合に、住民票がその施設のある住所に登録してある場合は、そこで火葬する方が安く上がります。


もちろんご遺体を家族の住む自宅に連れて帰り、そこで火葬とお葬式を行いたいと希望する方も多くおられます。ですが遺体搬送の寝台車料金はキロで計算されますから、遠方の場合は結構な料金が発生します。そして火葬料も市外の死体として扱われますから高額の料金が発生します。搬送手配をするなら葬儀屋は家族の住む地域の葬儀屋に頼むと安くなる場合があります。「お宅で葬式をお願いするから、遠方から運んでくれ」と伝えるのです。


今回は介護施設の地域で火葬をして骨箱を持ち帰り菩提寺でお葬式をあげることにしました。夫婦二人だけで火葬場に行きお骨を待つつもりでしたが、手の空いている介護スタッフが炉前に駆け付け、コロナ過で面会出来ない時に施設で過ごした故人の様子の動画や思い出話をしてくれて、とても思い出深い時間を過ごすことが出来たと話してくれました。

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