おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

仏壇は何のためにあるの

始めてお葬式をされた方が、その後の悩まれるのが仏壇とお墓をどうしようかと言う問題です。お墓は少し先に延ばしても問題は無いのですが、四十九日法要が迫ってくると、それまでに塗りの位牌とそれを納める仏壇の購入が迫ってきます。そもそも仏壇とは、何のためにあるのでしょうか?


仏教信仰を行う場所と言うならばお寺があります。ご先祖の供養の場所ならお墓があります。そうなると、お仏壇を家庭に置くのはなぜなのかとの疑問が湧きます。仏壇の役割は、ご自宅に、信仰の中心となるご本尊を祀り、そこに亡くなった故人のご位牌を安置することで、ご先祖と亡くなった家族を身近に感じ、供養を行うためにあります。お寺をミニチュア化して一般家庭に持ち込むために作られました。ですから、内部はお寺のご本尊を安置してある本堂と同様の作りになっています。この作りを内陣(ないじん)と呼びます。


奈良時代に書かれた「日本書紀」にお仏壇の起こりについての記述があります。686年に仏教を広めるため天武天皇が領地ごとに小さな仏舎を作って仏像と経典を納めよという勅令を出したというものです。その仏舎を納める建物がお寺となり、日本各地に広がりました。一般庶民に仏壇が普及したのは江戸時代です。江戸幕府が寺檀制度を整備したことにより、各家庭にも仏壇が置かれるようになりました。


仏教の考え方が変わってきている現代においては、仏壇の目的は、日々の信仰よりも、ご先祖や亡くなった家族の供養という意味合いが強まっています。仏壇を安置し、お参りすることで心の安らぎを得ることが出来るのです。毎日、仏壇に手を合わせ、日々の出来事を報告する人もいます。お仏壇は「大切な人と対話が出来る場所」という特別な空間になっているのです。


核家族化や生活様式の変化などにより、仏壇を持つ家も少なくなりつつあります。それでも、購入する人が無くならないのは、亡くなった大切な方への想いをつなぐ場所だと知っているからです。寂しくなった自身の心のよりどころを、仏壇と言う身近な場所をつくることで、毎日の暮らしの中に生きがいを生み出しているのです。


仏壇は必ずしも大きくて立派な家具である必要はありません。無宗教葬も多くなりました。こうなると寺院の本堂を模した浄土の小型化と言える、金箔を多用し仏具で溢れる高価な仏壇の必要もなくなりました。今の主流はシンプルな内装の家具調仏壇です。


先日、ご主人を送った喪家宅に新品の家具調仏壇が置かれていました。中にご主人の骨壺が納骨せずにそのまま置かれています。「毎朝声をかける」と、残された奥様が話し始めました。


「家には、お墓が無いから、骨壺の置き場としてこの仏壇を買ったの。私が死ぬまでこのまま飾って置いて、私が骨になったら、この壺の骨と私の骨を一緒に混ぜて一つの骨壺にして欲しい。そして納骨堂に納めるか、樹木葬にしてもらうか、海洋散骨でもいいわよ、と息子に言ってあるの」

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