おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

生まれ変わりを見ました

あなたは生まれ変わりを信じますか?仏教の死生観は輪廻転生(りんねてんしょう)で成り立ちます。輪廻転生とは死後、生まれ変わることです。初めての土地なのに、前に尋ねた記憶がよみがえる人がいます。小さい子供が生まれる前の記憶を話す事があります。又、夫婦で可愛がっていたペットが奥さんの妊娠が解かると元気がなくなり、赤ちゃんの誕生前に旅立つという話もあります。


彼女は臨月の大きいお腹を抱えながら納棺式通夜式と参列しました。葬儀に妊婦の参列は良くないと言われます。あくまでも迷信ですが、気になさる方も多いのです。妊婦が参列を望むと「あざのある赤ちゃんが生まれる」とか「赤ちゃんがあの世に連れて行かれる」と脅され断念する方も多いのです。お産で命を落とす時代に、過酷な葬儀から母子を守りたい思いから生まれた迷信だと思われます。


彼女にも周りからいろいろな声がかけられました。「お棺には近づかないように」「火葬場にはいかないで」「骨上げは参加しないように」「お腹に小さな鏡を外向きにして入れておくように」「お腹に赤い布を巻きなさい」などと言われていました。


そのたびに、彼女は
「大丈夫です。可愛がってくれたおじいちゃんに、しっかりとお別れをします」
と、きっぱりと答えていました。故人はお孫さんの結婚式に車イスで参列し、妊娠を伝えたときは小躍りして心から喜んだそうです。


臨月の参列と聞いていましたので、我々葬儀屋も急な事態に備え、車椅子を用意し、段差のあるところはセレモニーアシスタントさんが手を繋いで先導し、冷えないように、ひざ掛けを用意するなどと気を配りました。


翌日の告別式では、お顔が見えなかったので遠慮されたのかなと思いつつ進行し、出棺しました。 火葬場に着き、火葬炉のスイッチが入り、ゴーと言う音が聞こえてきた時です。
そのとき、喪主様のスマホが鳴りました。


「生まれた。男の子。母子ともに元気」


喪主様にとっては、初孫です。


期せずして「おめでとう、おめでとう」の声があがりました。 火葬場で「おめでとう」を聞くのは始めての経験でした。


しばらくして
「葬儀屋さん、いろいろご心配をかけてすみませんでした」


喪主様が見せてくれたスマホの画面には、遺影写真のおじいちゃんと目元がそっくりな、赤ちゃんがこちらを見つめていました。

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