おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

自宅で看取られる人には

葬儀屋の宿命は、愛する人を亡くした直後のご家族に対面することです。お会いする場面のほとんどが病院のベッドの脇か霊安室です。ご家族の皆様の感情は、驚愕、慟哭、呆然、困惑です。ところが、穏やかな感情で、静かに故人の死去に向き合っている家族にお会いできる場面があります。それは、最後まで自宅で家族に看取られた方が寝ている状況です。


高齢者のほとんどが「最期は自宅で迎えたい」と回答しています。しかしこの希望をかなえられた人は多くはいません。統計によると介護が必要な高齢者が、ご自宅で死去できた割合は5%以下の数字が出ています。残りの方は病院で亡くなっています。在宅での看取りとは、動けなくなった病人を自宅で介護し、家族で死去を見届けることを指します。故人の希望通りの看取り方ができたご家族は、人間の死という場面を上手に乗り越えていますから、事が起きて葬儀屋が来た時には、達成感と穏やかな感情で迎えてくれるのです。


しかし、家族だけで在宅介護や看取りをすることは、実際問題としてとても難しいことになります。介護とは24時間365日行うものであり、その「最期」がいつ訪れるかは未定です。特に痴呆が入ると、すさまじい介護生活が延々と続き、いつ終わりが来るかわかりません。この状況は家族にとって肉体的や精神的な疲労を生み出します。病人と家族がなんでも気兼ねなく言い合える間柄であれば良いのですが、血のつながりはあってもコミュニケーションが不足して、精神的な距離がある家族ですと、お互い言いたいことが言えません。結果として、在宅介護を続けられずに病院へ入院させ、そのまま病院での死去になるケースが大部分なのです。家族だけで在宅介護や看取りを行うのはほとんど不可能と言えます。


自宅で最期まで面倒を見る覚悟をするなら、訪問介護と看護についてアドバイスをもらえるケアマネジャー(介護支援専門員)の助けが必要です。在宅療養中の介護と医療をつないでくれる存在がケアマネジャーです。自宅で介護をする場合の病人の世話は大変な作業になります。特に大部分を占めるのが入浴・食事・排泄介助です。この3つは介護負担が高く、介護者の精神状態悪化に結びつきやすいのです。そのため、ケアマネジャーにヘルパーと訪問看護師とかかりつけ医師の情報共有できるような仕組みを作ってもらいケアプランを作成してもらいます。


自宅で看取りをするは訪問看護師の力を借りることが必要不可欠です。訪問看護師は自宅で療養している間の医療的な介入や、日常生活の処置など様々なことを行ってくれます。また、療養されている患者さんだけでなく、家族に対しても精神的なフォローや情報提供といった介入をしてくれます。
訪問看護同様に必要なのがかかりつけ医です。かかりつけ医は定期的な診察や、状態が悪化したときの対応、そして死亡直後の書類作成を行ってくれます。スムーズに死亡診断書がもらえるのも、自宅で最期を迎えるためには重要な要素です。かかりつけ医を見つけるには、これまで治療されていた病院が紹介をしてくれることもありますし、地域包括支援センターや市町村の在宅医療相談窓口で相談すると紹介してもらえます。


ご自宅で充分な介護を受け、寿命を全うされて逝去された皆様は、すべて安らかなお顔をしています。そして、ご遺族も「しっかりやってあげた」と言う満足感も現れています。このような場面に立ち会い、ご遺体に向かうと「うらやましい」と言う思いを胸に旅立ちの支度に取り掛かります。

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