おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

祭祀権は喪主決定に重要

お葬式を行うにあたって最初に決めることがあります。家族の中で喪主を誰にするかです。喪主とは遺族を代表して葬儀全般を取り仕切る立場になります。具体的には葬儀屋と相談して内容を決め、お寺への連絡をして、通夜や告別式を進行していきます。会葬者を出迎える時と出棺時や精進落しの席などでは遺族を代表して挨拶をします。さらにお布施やお香典の金銭の管理を行い葬儀終了後はお礼の挨拶と返礼品まで責任を持ちます。


喪主の決め方に法的なルールはありません。慣習に従って血縁者が喪主を務めることになります。ご夫婦の場合は故人の配偶者が喪主を務めるのが一般的です。配偶者が既に亡くなっている時や、高齢であったり病気であったりして喪主を務めるのが困難な場合には、血縁関係の深い方が喪主を務めます。具体的な優先順位は、故人の長男、次男以降の直系の男性、長女、長女以降の直系の女性、故人の両親、故人の兄弟姉妹となります。


父親が亡くなり、母親と長男、次男の二人の息子が残されました。長男は実家を離れ遠方で自宅と家庭を持ちました。次男は実家で家庭を持ち母親と同居しています。父親が寝込んでからは代わりに先祖代々の墓を守っています。この場合喪家様から「喪主は誰が務めたら良いかな」と尋ねられたら「ご家族で決められることですが、これからのことを考えると祭祀権を引き継ぐご次男が喪主様を務めるのが一つの考えだと思います」と答えます。


祭祀権とは系譜、祭具及び墳墓といった祭祀財産を管理し祭祀を行う権利です。この権利を引き継ぐ人を祭祀承継者と呼びます。継承者は代々受け継がれている祭祀財産を引継ぎこれからの祖先の祭祀を主宰する人になります。系譜とは先祖代々の血縁関係を記載した図表です。家系図とも言います。祭具とは祖先の祭祀に用いられる器具で位牌、仏壇、神棚の事です。墳墓とは墓石と墓地の事です。祭祀承継者が亡くなると次の祭祀承継者を決める必要が出ます。これからの祭祀の実施と代々続くお寺とのお付き合いも出てくるので次の祭祀承継者になる方が亡くなった父親の葬儀の喪主になるのが一番スムーズなのです。


祭祀財産の継承は民法 897条に書かれています。条文には祭祀財産は金銭的な価値のある高価な品物であった場合でも相続財産に含まれないと記入されています。祭祀財産は相続税の非課税財産なのです(相続税法12条1項2号)。祭祀財産は通常の相続財産とは別物ですから相続税を支払う必要はありません。そして祭祀継承者は遺産を多くもらえるわけでもありません。祭祀継承者がしぶしぶ祭祀財産の承継した場合、引き換えに遺産を多めにもらうことを希望してもそのような権利は法的に保証されません。


祭祀財産は相続財産ではないため、相続放棄によって承継を回避することは不可能です。遺言等で被相続人から指名を受けた場合は法的には祭祀承継者への就任を避けられないことになります。しかし一旦祭祀財産を所有すれば祭祀承継者は祭祀財産を自由に処分することができます。いわゆるお墓の処分といわれる「墓じまい」を行うことが出来るのです。ただし、祭祀承継者が自分だけの判断で祭祀財産を処分してしまうと、他の親族から強い反発を受ける可能性があります。


葬儀に関する質問で「喪主は誰が務めるべき」とお悩みの方もいらっしゃるかと思います。1つの答えが「祭祀権を継承される方が喪主となるのが最適です」と言って良いと思います。喪主は次の祭祀権を継承する方が務めるが一番なのです。

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