おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

遺影写真を笑顔で作ろう

通常お葬式が行われている葬儀会館には、重くどんよりとした悲しみの雰囲気が漂います。全員が真っ黒な喪服を身に着け、下を向いてトボトボと歩き、祭壇の遺影写真を見上げて小さなため息をつき、焼香を始めます。この状態では参列者のどなたもホッとする気持ちにはなれません。ところが今回のお葬式では、何とも言えないホノボノとした雰囲気が皆様の心に芽生えました。その理由は祭壇に飾られた遺影写真にありました。


遺影写真の故人が笑っています。それも、大きな口を開けた「破顔一笑」と言う言葉がピッタリと合う写真です。向き合うどなたも思わず笑ってしまう様な写真です。私が破顔一笑と言う四文字熟語を使ったのは、最初にその原板を渡された時に、その写真が「顔が破れる」と言ってもいいほどの面相で、相好を崩して大笑いしている印象を持ったからです。


本来の「破顔一笑」の意味はにっこり笑う様子です。「破顔」は顔をほころばせること、「一笑」は軽く笑うという意味になります。たとえば「合格の知らを受け破顔一笑した」と使います。従来は良い知らせを聞いて笑顔になるという場面で用いる四字熟語です。


お葬式を準備する喪家様が悩むのが遺影写真の原板探しです。結局、数枚ほど出してきて「葬儀屋さん選んでくれ」と言われることが多いのです。葬儀屋としては当然無難な一枚を選びます。遺影写真はお葬式の際に多くの参列者に見ていただくものです。顔が大きく写っていて、ピントが顔にあっているものが一番です。背景がブルー系やモノトーン系の写真も参考にします。参列者と対面し見上げてもらう写真ですから身体は正面で目線がカメラへ向いているのを選びます。なによりも難しい顔をした真面目な表情を手にとります。良い表情だなと思っていても、葬儀の場では「笑い顔」は不適切と考えてしまうのです。


ですが、近頃はお孫さんと一緒に写った幸せそうな表情の写真や、旅行先でのリラックスした顔写真で、ご遺族が「この写真が故人の本当の顔だ」と考える原板も多くなりました。


それでも最初にこの破顔一笑の写真を手渡されたときは「祭壇へ飾る写真ではなく、お葬式の後にご自宅に飾って置く写真にされて、もう少し違う顔のお写真を選ばれたら如何でしょうか」と言ってしまいました。まだまだご年配の方を中心に「笑顔」の遺影写真は「とんでもないこと」とお叱りを頂くことを知っていたのです。喪主様はキッパリと言いました。「この写真が気に入っています。参列者皆様の為にも、この写真で作ってください」


後で、喪主様のお仕事が映像関係だと知りました。一枚の写真から受ける印象で、会場の雰囲気が大きく変わることをご存じだったのです。


最近では遺影写真が「笑顔」であることに抵抗感を抱く方が少なくなってきています。おそらく芸能人の葬儀の影響が大きいと思います。ニュースで報道される芸能人のお葬式は必ずと言っていい程、とびっきりの「笑顔」の遺影写真です。亡くなられた方の笑顔の写真は残された家族だけでなく、参列した方全員にとってかけがえのない癒しの効果があるのです。


このブログを見て頂いている皆様。自分の遺影写真を、とびっきりの「笑い顔」にしてみませんか?そしてお葬式の時に、祭壇の高い所から、参列者全員に笑いかけてみませんか?

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