おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

学会の友人葬は見事です

「南無妙法蓮華経(なんみょうほうれんげきょう)」ホールを揺るがす程の声量です。参列者全員が声を合わせてお題目を一心に唱える姿は圧巻です。お通夜の時間が近づくと、会社帰りのスーツのおじさん達や買い物帰りの普段の服装のおばさん達が次々と集まり始めます。驚くことにこの人たちは、祭壇に飾られている遺影写真の故人と、これまで面識のない方が大分部です。


祭壇の前に曲録(きょくろく)の名がつく椅子があります。そこにはお坊さんがいません、いつも袈裟を着たお坊さんが座る椅子に座っているのは、普通のスーツを着た儀典長と呼ばれる代表者です。導師を務める儀典長が朗々とした発声で読経と唱題を行います。読経とは法華経の方便品と寿量品の自我偈(じがけ)を読み挙げることです。また唱題とは南無妙法蓮華経のお題目を唱えることを言います。自我偈の後、導師の打つ鈴の合図に合わせて、参列者全員が声を合わせてお題目を唱えます。


これが、創価学会の友人葬というお葬式のスタイルです。創価学会とは1930年(昭和5年)に創立された宗教法人です。法華経系の在家仏教の団体で国内に公称827万世帯あります。創立時は日蓮正宗の在家の信徒団体でしたが、宗門や法主との考えの違いから独立しました。創価学会の友人葬には僧侶がいません。当然お布施の話も出ません。また故人に戒名はつけません。


友人葬のスタイルは日蓮大聖人の本義に則った葬儀と言われています。葬儀で僧侶が引導文を読み上げないと成仏しないとか、戒名が必要であるという考え方は、仏教の本義に照らすとおかしいと考えられています。成仏できるのはあくまでも故人の生前の信仰によるものと考え、なによりも大切なのは故人を悼む心からのお題目による追善回向だと教えています。ですから他人のお葬式でも集まり供養する形の友人葬こそ、仏法の精神にもっともかなったお葬式であると信じられているのです。


学会員が亡くなると、その地域の学会全員に連絡が入ります。そして葬儀会場に集まります。学会員が朝夕に唱える経文の自我偈を全員で読み上げ、南無妙法蓮華経のお題目を唱えて追善供養を行います。友人葬とは、生前は他人であってもお葬式の場では故人の友人として集い、全員でお題目を唱和するお葬式のことなのです。


創価学会の方は「ご本尊」を非常に大切にしています。予備知識のない部外者が簡単に触れることは絶対に許されません。我々葬儀屋がお手伝いをするときも細心の注意をします。祭壇の厨子にご本尊の掛け軸を掛ける時には、白い手袋をつけて、息が直接かからないように樒の葉一枚を口にくわえてから取り扱います。


公明党の母体でもある宗教団体が創価学会です。1964年に池田大作創価学会会長の発意によって結成された政党です。突然のお葬式でもすぐに集合する学会員を見ると会員同士の繋がりが強く、選挙に勝てる政党である理由が解ります。


ホール全員の参列者が一同でお題目を唱和する会場には、キリスト式の讃美歌を参列者が歌うことと同様の一体となった雰囲気が生まれます。
会場全員で唱える「ナンミョウホウレンゲキョウ」のお題目の唱題は見事です。

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