おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

故人の後を追ったペット

一人暮らしのお婆ちゃんが亡くなりました。可愛がっていた犬が数時間吠え続けていたので、ご近所が見つけました。警察が連絡先を探しましたが、家族親戚が見つかりません。やっと連絡がついた遠い親戚は「関係が無いので役所にまかせます」と突き放しました。借家でお金になる家財も無く、葬儀代の持ち出しになると考え相続放棄をしたのです。役所から来た人に「教えた愛犬はどうなるのですか」と尋ねると「保健所に引き渡しました。3日程で殺処分でしょう」と返ってきました。


70歳以上の高齢者のうち約30%がペットを飼っています。子供の巣立ちや配偶者を死別で見送ると、心の寂しさを埋めるためにペットを迎え入れる方が多いのです。ところが、突然死とか骨折等で急な入院などが起きた場合、飼っていたペットの処遇が大きな問題となります。突然飼い主を亡くしてしまうペットは、残酷な運命が待ち受けるのです。新たな飼い主が見つかることは、ほとんどありません。一応、親族や知人友人に引き取る人がいないかを探すと言いますが「家族にアレルギー持ちがいる」「賃貸に住んでいる」「餌やり散歩が面倒」と誰も名乗り出ません。


結局面倒になり「保健所に連れて行く」となります。遺品整理のようにペットを殺処分してもらおうと考えるのです。しかし保健所は家庭で飼えなくなった動物を殺してもらう場所ではありません。野良犬や野良猫が狂犬病などの病気を撒き散らすことがないよう、やむなく殺処分を行う施設なのです。


亡くなった方が可愛がっていたペットが、故人の死を理解して、後を追っていくというお話はよく聞きます。また、突然の飼い主の死で、周りがペットの存在を忘れてしまい、死んでしまった話も聞いています。文鳥とか金魚でした。自分で行動できない動物は、やむなく飼い主の後を追う運命にもあるのです。可愛がっていた猫がいつの間にかいなくなってしまったと話された喪家様もおられました。いつまで待っても帰ってこなかったそうです。「飼い主の死を知ったようだ」と話されていました。犬の話はよく聞きます。納棺の時にそばに来て顔を舐めたとか、自宅から葬儀場に行く準備をしているときに、一緒に連れて行けとうるさく吠えたとか、出棺のときに、今まで一度も聞いたことのない遠吠えを急にし始めたなどの話です。


このお婆ちゃんの引き取りの前に、ご葬儀を終えた喪家宅に後祭り祭壇の引き上げにうかがっていました。祭壇に故人のお骨の入った大きな骨壺とその横に一回り小さい骨壺が並んで置いてありました。「葬儀屋さん、この小さいほうは可愛がっていた犬の骨なのです。一緒に埋葬してあげようと、今、墓地か納骨堂を探しています」「ワンちゃんも亡くなったのですか。それは、残念でしたね」 「故人がとても可愛がっていまして、亡くなったのがわかったのか、お葬式の日から元気がなくなってきていました。そして数日で死んじゃったのです」「ペットも飼い主が居なくなった事が解ると聞いています」遺影写真の横に愛犬を抱いて優しい笑顔で写る故人の写真が並んでいました。


火葬炉の前で「3日で殺処分」を思い出しました。今日が3日目です。故人の後を追うように死んで手厚く供養される犬と、お婆ちゃんの死去を必死で知らせたのに、人間の都合で殺される犬がいました。どこかで鳴き声が聞こえた気がしました。

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