おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

名称の理解度を試される

電話が掛かってきました「ガクフの葬式をしたいのだが」皆様はガクフと言う名称はご存じでしたか?漢字では「岳父(がくふ)」と書きます。わかりやすく言うと、配偶者の父親のことです。夫が妻の父親を指す言い方で舅とか義理の父と言うのが一般的な名称です。


「ご愁傷さまでした。ご尊父様がお亡くなりですね。どちらにお迎えに上がりましょうか」と返事をします。電話口の相手はやっとまともな返事が来たと言う調子で返答が来ました。
「お、解ったか。お宅に決めるから、お葬式を頼む」


お迎えの病院で対面した喪主様は、ボリュームのある白髪の頭に、銀ぶちの眼鏡、高価なスーツを召した、いかにも教養溢れる男性でした。


奥様の父親が入院後に危篤になり、その時点で急遽、葬儀屋を決めないといけない状況になったそうです。初めてのお葬式に、ボッタクリのイメージのある葬儀屋に良い印象がなかった喪主様は、一つのアイデアを思いつきました。数社の葬儀屋に同じ質問して、返ってくる答えで、信頼できる葬儀屋を選ぼうと考えたそうです。


後で、弊社に決めるまで数件の葬儀会社に電話をして、冒頭の質問をして返って来る答えを聞いてまわったと話してくれました。葬儀屋を決める条件に、常識のある対応が出来るかどうかを試してみたかったそうです。


「ガクフの葬式」と話し始めたらほとんどの葬儀屋が「え、どなたのお葬式ですか?」と聞き返したそうです。ネットで検索上位に出てくる葬儀屋紹介業者の場合は、若い女性のオペレーターが「ガクフと言うのは音楽葬の楽譜ですか?」と聞き返したそうです。


岳父の言い方の他に、岳翁(がくおう)や岳丈(がくじょう) の敬称を使うこともあります。この言い方は、夫の立場で妻の父親を言うときに使い、妻が夫の父親を言い表す場合は、義父(ぎふ)を使います。姑に岳母(がくぼ) と言い方は間違いではありませんが、あまり使われません。「岳」という字が険しい山を連想し、母親のイメージに重なりにくいからです。


口頭ではあまり使われませんが、喪中はがきや弔電などでは身内の名称を特別な言い方で表します。第三者が先方の父を表すご尊父(そんぷ)や、母を表すご母堂(ぼどう)、そして相手の奥様を表す、ご令室(れいしつ)、兄は、ご令兄(れいけい)、弟は、ご令弟(れいてい)、姉は、ご令姉(れいし)、妹は、ご令妹(れいまい)、息子は、ご令息(れいそく)、娘は、ご令嬢(れいじょう)、跡取りは、ご令嗣(れいし)、お婿さんは、ご令婿(れいせい)、孫は、ご令孫(れいそん)、伯父は、ご令伯(れいはく)、伯母は、ご令淑(れいしゅく)、などがあります。


日本語が乱れていると言われ始めた現在、このような名称を使う方は、ほとんどいなくなりました。外国人と比べると、日本人は言葉遣いで相手や周囲の方への気配りをします。そしてマナーを守る国民性がとても強いと言われます。この業界にまだ難解な敬称が残っている理由は、お葬式と言うイベントが亡くなった人を敬う時間だからだと思います。


懸念はありましたがクレームも無く、無事に終了しました。当然、喪家様との打ち合わせと、お葬式の最中は、いつもにまして言葉遣いに気を使いながらの対応でした。

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