浄土真宗は少し違う仏教
仏教にはいろいろな宗派があります。その中でお寺の数が一番多いのが浄土真宗です。真宗と略称で呼ぶ方もいます。当然檀家数も多いので、お葬式に呼ばれるお坊さんの割合も一番です。浄土真宗の信徒が増えたのは、仏教が貴族や武士だけの宗教では無いと説き、一般庶民のための宗教として布教されたからです。禅宗などの武士の宗派は品格が高いのがステータスですがお布施も高くなります。その点、浄土真宗のお寺はお布施があまり高くないので、お勧めの宗派ですなどとは、葬儀屋としては口が裂けても言えません。
この浄土真宗という宗派は「他の仏教宗派とは少し考え方が違います」と言うことをご存じでしたか?浄土真宗では亡くなった方は、すぐに阿弥陀如来(あみだにょらい)の力によって極楽浄土へ導かれます。この死者が極楽浄土で直ちに仏になることを往生即成仏(おうじょうそくじょうぶつ)と言います。他の宗派では亡くなった方は極楽に行くために49日間の死出の旅に出ると言われます。この49日間は霊という状態だと教えています。浄土真宗だけは、死ぬとすぐに仏様になれるのですから、霊という存在自体を認めていません。
そうなると香典の表書きが問題となるのです。浄土真宗でお葬式をあげる故人や遺族に対して失礼にならない香典の表書きは「御仏前」にするのがマナーです。亡くなられた時点で故人は成仏していて霊にはならないため、香典の表書きの「御霊前」は使用出来ません。
霊という考え方が無い浄土真宗では、他の宗派が行なう慣例をしません。病院から搬送して安置をすると、他宗派では枕元に一膳飯や枕団子を置き守り刀を持たせますが、すぐに仏様になりますから用意をしません。死出の旅路がありませんので旅装束も着せません。お坊様が式中に行う、故人を仏にする受戒(じゅかい)や引導(いんどう)の作法がありません。浄土真宗の葬儀に参列した際、清め塩が無かったという記憶があるという方がいるかもしれません。死を穢れ(けがれ)と捉える考えはもともと仏教にはありませんが、日本では神道の影響を受けて仏教の葬儀でも清め塩が使われることがほとんどです。しかし浄土真宗では死を穢れとする考えは仏教には無いという捉え方をします。死者は霊になりませんから、参列者に悪霊退散の清め塩を持たせる必要がないのです。
焼香のマナーも違います。浄土真宗では焼香を行うときに、抹香をつまんだ後に額のところまで掲げることはしません。摘まんだ指をそのまま炭のところにくべるのが作法です。
線香では香炉に立てる宗派が多数ですが、浄土真宗の場合には点火している方を左に向けて香炉に寝かせます。香炉の幅に線香が納まらない場合には2つに折ってから着火します。
参列者が持つ数珠(じゅず)は念仏を唱えるときに回数を数えるための道具です。しかし浄土真宗の場合は阿弥陀如来の力によって救われますから、成仏のために念仏の回数を数えません。そのため浄土真宗の場合は数珠と呼ばないで念珠(ねんじゅ)と呼びます。
挨拶の時のマナーとして「ご冥福をお祈りいたします」という表現をしません。他宗派では冥途という死後に行く迷いの世界があり、そこでの幸福を祈る言葉ですが、浄土真宗では死後すぐに極楽浄土に導かれていて冥途の世界とは無縁だからです。
他宗派のように死者が戒律を守って仏様になるのではないので、位牌に書くのは戒名ではなく法名と呼びます。浄土真宗には、その他の宗派とは異なる注意点が結構あるのです。