おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

棺の知識を学びましょう

棺(ひつぎ)と柩(ひつぎ)の文字がありますが意味の違いをご存じですか。まだ遺体が入っていない状態を棺と呼び、中に寝かせて納まった状態を柩と呼びます。ですから空の(ひつぎ)を持って来て納める前の儀式が「納棺式」となり遺体が納まった(ひつぎ)を運ぶ車を「霊柩車」と呼ぶのです。


遺体を納める入れ物を棺桶(かんおけ)とも呼びます。ひつぎと呼ぶようになったのは「霊魂を引き繋ぐ」の意味の霊継ぎ(ひつぎ)からきています。日本では遺体処理に火葬が義務づけられています。火葬場ではご遺体は棺桶に納めた状態でないと受け付けてくれません。


棺桶のサイズは尺で表記されます。棺桶の大きさは長さ6尺、幅53センチ高さ40センチが標準です。1尺は約30センチで6尺は180センチです。死後硬直すると足のつま先が伸びて背伸びした状態になります。6尺あればほとんどの方は入りますが、180センチ以上の長身の仏様には、膝を少し立ててもらい納めます。大きい棺が用意できない理由は、火葬する炉の内径にも規格がある為炉に入るサイズの棺桶でしか受け付けられません。


高級品には檜、樅、杉、桐などの天然木の無垢材で作られ、周りに豪華な彫刻を施し価格が200万円を超えるお棺があります。普及品はベニヤ板を加工した板のフラッシュ材で作られます。今人気があるのはそのフラッシュ棺を布で巻いた布張り棺です。周りに張り付ける布の色も豊富で刺繍や模様のプリントを印刷し豪華に見えるからです。価格は5万から10万円程が人気です。エコブームの流行で段ボール製の紙棺が話題になったことがあります。たしかに木製の棺を燃やした時の二酸化炭素の排出量も少なく火葬設備にも負担をかけません。しかし需要がまだ少なく、合板布張りの棺より価格が高くなるのが欠点です。


海外で亡くなった方を航空貨物で搬送する時は、エンバーミングを施したご遺体を完全密封が出来る金属の枠とアクリルで作ったエンバー棺が使われます。ただし、この棺では火葬出来ないので、空港到着時に倉庫で木製棺桶にご遺体を移し替えます。


棺桶に入ってみると足は延ばせますが、肩幅が窮屈です。葬儀屋が納棺時に両手を組ませるのは幅が狭い棺桶にスムーズに入れるようにするためです。蓋を閉めると圧迫感も感じます。納棺時に棺を運び込むと周りで見ている家族や親族が、「入ってみてもいいですか」と望まれることがあります。テレビで生きているうちにお棺に入ってみると長生き出来るとの言い伝えが紹介された事から、葬儀見学会でも入棺体験希望者は増えてきています。


棺桶の値段ほど、わかりにくい家具はないでしょう。葬儀屋もそこにつけ込み法外な価格で売り込みます。セット価格に組み込まれている棺桶は、中国製のベニヤ合板を接着剤でつけただけの一番安価なものが多いのです。「これでは、最後の旅立ちが可哀そうです」と言いくるめて10万20万と少しでも高価な棺桶にグレードアップさせるようにします。


病院から搬送されて自宅のお布団で安置している時は、まるで眠っているように感じていたご遺体ですが、納棺式を終えて棺に納まる姿を見ると、「本当にこの人は亡くなってしまったのだ」と、皆様が実感するのです。棺には心の整理をつける家具の効果もあるのです。


ヒノキの香りに包まれて、豪華な彫刻の天然木棺で旅立つか、接着剤の香りに包まれて、ベコベコの中国産のベニヤ棺で旅立つか、あなたはどの棺桶を選びますか?

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