もっと涙を流しませんか
この頃のお葬式で気がつくことがあります。強い悲しみを身体中から表現し、声をあげて泣く家族をほとんど見なくなったのです。昔から日本人のお葬式は厳粛な雰囲気の中、静かに故人を偲び、悲しみに浸ると言われ、あまり泣き叫ぶ方はいませんでした。それでも家族の中には大声で泣き、周りもつられて涙を流すお葬式も珍しくはありませんでした。それが最近は家族でも泣く方がほとんどおりません。まして参列者の涙を見つける場面も、極端に減ってきています。いつの間にか、我々日本人は泣かなくなってしまったのです。
先日、韓国の方のお葬式をおこないました。参列者の皆様が故人を悼み激しく泣きました。遺族よりも激しく号泣する「泣き女」という職業もあるそうです。お葬式の時に大げさに泣き叫ぶのが仕事だそうです。弔問客として参列し、葬儀や出棺の際に率先して号泣することで、ほかの参列者がつられて泣く助けをするそうです。儒教の教えでは参列者の涙の量が故人の生前の徳を表すと言われています。泣き女は涙の量を増やす役割を担っているのです。又一説には泣き女の慟哭が、悪霊払いや死者の復活する魂を呼ぶとも言われます。
涙は自律神経の副交感神経が優位になると涙腺が刺激されて出てきます。逆に交感神経が働いていると涙は出ません。心身をリラックスさせて副交感神経を働かせると涙腺が広がり、涙があふれるのです。
お葬式の時に涙が出なかったと後悔する方もおられます。初めて家族を亡くす経験ですから、当然身体中が緊張し交感神経が目いっぱいに働いています。これでは涙は出ません。しかし参列者が帰ったお通夜の夜に、喪主が祭壇前で静かに泣く姿も見ます。お葬式で活発化していた交感神経から、悲しみの感情で副交感神経に切り替わると、心身の緊張がほぐれ涙が出るのです。充分に涙を流すことは自律神経を整えるのに役立つとされています。
身近な人との別れを受け止め、その悲しみから立ち直るためには大きな声で泣きましょう。涙をたくさん流すことはお葬式のストレスから身体を守る必要な行為なのです。家族を亡くした後に精神を病む方は涙を流すことがなかったというグリーフケアの報告もあります。
涙活という言葉が生まれています。日々のストレス解消のために、悲しみの感情を高め、涙腺を緩めて涙を流す行動だそうです。思いっきり涙を流すことで心身がリラックスします。泣いた後はすっきりとした晴れやかな気分になるようです。大人になると涙を流す機会はほとんどなくなります。これではストレスが日々溜まり精神に不調をきたすのです。
お葬式会場で遺族はしっかり振る舞うのが日本人の美徳とされています。悲しみに耐えて、気丈に振る舞う日本人特有の美学を否定するつもりはありません。しかし大切な人の死に心が壊れそうになりながらも、じっと泣くのを耐える遺族を見かけたら、
「我慢せずに泣いてください」
と優しく声をかけてあげてください。そして深い悲しみに耐えきれず、人目もはばからずに泣き崩れている遺族がいたら、どうか温かい目で見守って欲しいと思います。
皆様、もっとお葬式で泣きませんか?
そして日々の生活でも、もっと涙を流しませんか?