おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

金属のお骨が出てきます

火葬炉の扉が開きます。集合している皆様が一瞬、緊張する様子が伝わってきます。「もし、黒焦げ生焼けの姿が出てきたら」絶対にそのような事は無いのです。火葬の途中に、職員が炉の後ろの窓から何回も確認しています。毎回、綺麗に焼けた白骨が出てきますが、この頃は台車の骨の中に金属が見つかることが多くなりました。


昔は、骨折をすると漆喰のようなギプスをぐるぐる巻きにして完治まで何週間もそのままで過ごさなければいけませんでしたが、この頃は、手術で金属を入れる方法が多くなってきたようです。特に、高齢者が骨折をすると自力では回復不能になるようで、金属の固定手術が多く取り入れられるようになってきたと、聞いています。


軽い骨折は、ギプスで骨がつながるのを待つ保存療法で治療をしますが、高齢者の骨折はどうしても大きな骨折になる場合が多く、皮膚を切開して、骨のずれを直接整復し、金属のピン、ワイヤー、スクリュー、プレートなどを用いて皮下で骨を固定する手術が行われます。この手術を骨接合術といいます。体内に入れる金属はステンレスやチタンです。感染に強くMRIの撮影も可能なチタンが多く使用されます。


内固定手術の方法には、ピンニングと言ってピンを挿入して、折れた骨同士を固定する方法とか、骨折部をネジで止めるスクリュー固定術式があります。複雑骨折になるとプレート固定と言って骨折した部分をプレートとスクリューを使ってつなぐ方法になります。髄内釘(ずいないてい)固定というのは、骨の中の空洞にネイルと呼ばれるインプラントを入れて固定します。高齢者に多く発症する関節リウマチの治療では人工股関節の手術が行われます。大腿骨頸部骨折の時に入れる人工骨頭手術跡ではビックリするほどの、大きな金属が体内から出てきます。


交通事故がおきました。一人の若者が残念ながら旅立ってしまいました。ご遺体の損傷が大きく、特にお顔部分が傷ついていましたので納体袋という黒いビニールの袋に全身を入れお棺に納めました。警察の霊安室での確認は、お兄さんが行いました。


「ご遺体がヒドイ状態ですから」
と警察に言われ、母親は対面する事ができませんでした。


ご遺体を見ていない母親は、息子の死を実感できません。茫然自失のまま葬儀は進行し、火葬炉の扉が閉まりました。数時間後、お骨上げになりました。 扉が開き、台車に乗った、お骨が出てきます。
母親が「〇〇ちゃん」と叫びました。


腰の部分が金属のプレートで固定されていました。仏様は、数年前にもバイク事故を起こし、金属で骨をつなぐ大手術を受けたそうです。
「やはり、〇〇ちゃん、死んじゃったのだ」
母親は手術の前に埋め込む金属を見せられていて形を覚えていたのです。


火葬場職員が手袋で金属つまみ、横に取り除こうと手を伸ばしました。
「それは、息子の骨です」振り絞る様な声で母親が叫びました。

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