おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

最期の食事は何を食べる

ほとんどの方は1日3回行います。そして毎日の習慣です。しかし「これが最期の食事」ということがわかっていたら、あなたは「何を食べよう」と思いますか?もし最後の晩餐に食べたいものと質問されたら何と答えるのでしょうか?


一生に一度は食べてみたいと思っている食事を選ぶ方が多いようです。高級フランス料理のフルコースとかA5ランクの最高級和牛ステーキとか、世界三大珍味を制覇したいと言う方もいます。


日本人だから、やはり美味しいお米で作った塩むすびが一番とか、カウンターで食べる、回っていないお寿司を挙げる方もいます。


カロリーや健康そしてダイエットを気にせず思い切り食べると決めている方もいます。背油ギトギトのラーメンとか、ケーキバイキングなどを楽しむのです。


母の手料理にする方も多いようです。手作りハンバーグやエビフライ等。母親の作る卵焼きは、どんな高級料亭の卵焼きよりも美味しいようです。


ご遺体はまだ30代の若者でした。死亡診断書の病名は胃がんです。見つかった時には全身に転移していました。ご両親に告げられた言葉は、
「余命、三ヶ月」でした。
両親は必死の看病を行ないましたが、お医者様の宣告通りになりました。


納棺式を終え棺を閉めようとしたときに、急に母親が立ち上がりました。


「すいません、10分だけ、待ってください」
台所で物音がして、しばらくすると、味噌汁が出てきました。
「味噌汁、もう一回、飲んでちょうだい」


亡くなる一週間前に、半日の一時帰宅が許されたそうです。
「なにか、欲しいものは」
の問いかけに、息子さんはこう答えたそうです。


「茶碗いっぱいのご飯と、おふくろの味噌汁」
残念ながら、ご飯は、かおりを、嗅ぐだけでした。味噌汁は、小さいスプーンで、たった一杯だけ、やっと口に入れることが出来ました。


「うまい、うまい」
大きな声で、笑ってくれたそうです。


湯気の立つ味噌汁椀に綿棒が差し込まれました。冷たくなった若者の唇を、母親がその綿棒で静かにさすりました。


「これで元気を出して、三途の川を無事に渡ってくれよ」
痩せこけた頬を撫でながら、父親がそっと囁きかけました。

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