おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

結構気を遣う親族控え室

お通夜が終わると、ご遺族とご親戚は控え室で通夜振る舞いの時間を過ごされます。この頃は誰かがホールの棺桶の前で「お線香守り」と言って、一晩中過ごされる風習もほとんど見なくなりました。12時間は消えない「渦巻線香」などもあり、短い線香を付け替えずに済むことも棺桶の傍に居なくても良くなった要因の一つです。


控室で故人を偲び静かな時間が問題なく過ぎていればスタッフも安心なのですが、故人の死という突然の出来事で急遽集まった全員です。お酒も入り久しぶりの身内が集まると、中には結構、修羅場になる控え室も多いのです。


若いご主人が亡くなった控え室では、悲しみの奥様にご主人側の親戚より「あんたが殺した」と心無い言葉が浴びせられました。奥様側の親御さんからは「うちの娘を責めるな」と言い合いになっていました。


罵声が聞こえるので覗くと、テーブルの上に香典袋が開けられ「中身が少ない」と親戚同士の格の違いの張り合いになっていました。


お葬式が済んでいないうちに家の処分や財産の奪い合いで、子供達がそれぞれの配偶者を交えての、金銭額の相続争いになっていました。


今回の控室では、小さいお子様の騒ぎ声や赤ちゃんの鳴き声が聞こえます。なにか足りないものは無いかと様子を見にそっと伺いました。あれ、喪主をつとめている奥様の姿が見えません。トイレかとも思いましたが帰ってきません。気になりあちこち探すと、照明を落としたロビーに一人、ポツンと座っている人影があります。


喪家様が60代のご夫婦の場合は、お子様やご親族は、調度結婚して数年のカップルが多く、控え室には小さいお子様や、赤ちゃんが数組集ります。こんな時でないと、めったに顔を会わせない、おじさん、おばさん、いとこさん、はとこさん、そして親族に初のお目見えの、お孫さんと、悲しみの葬儀控え室ですが、意外と賑やかな、雰囲気になります。


「お疲れ様でした。」 「あ、お世話になりました。」
 
お顔が、涙に濡れています。


「控え室で、お腹に少し入れられたら、いかがですか」
「ありがとうございます。なにか、賑やかな、控え室にいたたまれなくなって、しまいました。主人も孫達の成長を見たかったでしょうね」
「そうですね。でもいつか、ご主人にお会いしてお話しすることが出来ます。ご主人の分まで合わせて長生きをされて下さい。そして、お子様方の成長の様子を、たくさんのお土産話にして極楽に持って言ってください」


奥様の顔が、ホッと和みました。
 
「そうですね。今度会った時に話してあげないと怒られますね。」


コンパクトを出し目元を整えた、喪主様は控え室に戻られていきました。

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