携帯はマナーモードでね
お葬式の開式前に、必ず携帯電話の注意アナウンスをするようになってずいぶん経ちます。「携帯電話をお持ちの方にお願いを申し上げます。葬儀進行中はマナーモード又は電源をお切りいただくようご配慮をお願いいたします」毎回ここまで注意喚起をしているのに、必ずといっていいほど着信音が鳴るのです。
映画館やコンサートホールでは妨害電波を出して、着信音をブロックするそうです。業者が葬儀会館にも必要ですと売り込んできたこともありました。緊急連絡が入らないと困るのでお断りしました。厳格なお寺ですと、お勤めの最中に携帯電話が鳴ると、怒って読経を止めてしまうお坊様もおられますから、葬儀屋も気を使います。
皆様がスマホ持つようになってから、ラインの着信音が良く聞こえるようになりました。急に「ライン」とか特有の「ピコン」と言う音が静まったホールに流れます。参列者の中には式の最中にビデオ通話でお葬式の現場中継をする猛者も現れます。
高齢者が集まる葬儀会館は、この頃少なくなったガラケーを持つ方も多く参列します。ガラケー携帯を持つ方は好みの着信音を設定する方が多いのです。それもなぜか人気のオモシロメロディーを選ぶ方がほとんどです。
お葬式という悲しみの場に、おどけた着メロなどが流されたら、厳粛な雰囲気が台無しになってしまいます。大変困ることになるのですが、必ずと言っていいほど、どんな葬儀でも最低一人は出てくるのです。それも、開式前の黙とうの時間とか、ご焼香に移る間のお坊様が懸命に読む読経の最中などの、決して邪魔されたくない時間帯を狙っているように鳴り始めます。
実は携帯電話の着信音トラブルを起こすのは、喪主様が多いのです。親戚を含む他の参列者は結構気を使ってくれて、電源オフ等にしてくれます。ですが開式寸前までドタバタしている喪主様には「お願いのアナウンス」も耳に入りません。又、急な不幸の出来事を知った人々から、お葬式の時間などに関係なく「一言お悔やみを」という連絡も次々と入ります。なによりも、初めての経験でイッパイイッパイの心にはマナーモードにする余裕はいっさいありません。
ある日の葬儀です。「故人を偲び黙とうをお願いいたします」とアナウンスが流れ、会場内がシーンとなりました。突然、結構な音量で着メロが流れ始めました。なかなか止まりません。
誰だ?誰の携帯だ?と全員がキョロキョロします。一斉にポケットやバッグをゴソゴソし始めます。マナーモードの設定がわからない参列者がいたのかもしれません。
私は「早く止めてくれ、止め方がわからないなら私が止めに行くけど」と心の中で叫びます。「おっと、ヤバイヤバイ」 と慌てた犯人は、喪主様です。
そして流れた着信音はなんと「笑点」のテーマ曲でした。
「テッテケ・テケテケ・ン・テッテン」
会場のあちらこちらで、失笑の渦がおきています。