旅立つ人達が贈った物は
テレビのコマーシャルに葬儀会場で、参列者が紫のスカーフやリボンを供養品として持って帰る場面が写ります。亡くなった故人の好きな色が紫色でしたというナレーションが入ります。素敵なコマーシャルだと、感じる方も多いようです。近頃の葬儀打ち合わせでは、故人の望みをかなえてあげたいと言う要望を良く聞きます。
家族や親戚の通夜式後の会食席に出張すし職人を呼び、にぎり寿司屋台を設置してまるで高級寿司屋のように注文する握りを参列者に振る舞った喪家様がいました。故人の口癖が「俺の葬式にはケチな料理は出すな、いつ握ったのかわからないようなパサパサの寿司を桶に入れて出すことをしてはいけない、職人を呼び目の前で握った寿司を皆に振る舞え」と言い残して死んでいったのです。もちろん皆様「美味い、美味い」と大喜びです。このお葬式は皆様の記憶に一生残るはずだと見ていて感じました。食事の記憶は祭壇の花より、よっぽど全員が覚えているものです。
次は、故人が長期入院中に作った折り紙の動物たちを祭壇に飾りたいと持ってきた喪家様がいました。プロの折り紙作家が作ったような、素晴らしい出来の動物たちです。棺桶に入れようと家族は思っていましたが、参列した親戚の子供たちが持って帰りたいと言い出し、結局棺に入れたのは残った数羽の折り鶴だけになりました。
参列者の皆様が喜んで持ち帰った贈り物がありました。旅立った奥様は植木鉢の手入れをするのが日課だったそうです。倒れた当日も植木鉢の水やりの最中でした。ずらりと並んだどの鉢にも大輪の百合の花が満開でした。
祭壇の飾りつけのお話が出たときに、喪主を務めるご主人が
「家内が世話した花を飾れないかな」と提案してきました。お花屋さんに手伝ってもらい20個ほどの植木鉢を葬儀会場に運びました。山百合、鬼百合、鉄砲百合、オリエンタルハイブリットと言われるカサブランカやゼルミナ、どの鉢にも1メートル程の高さで立派な大ぶりの花が4輪以上ついています。
棺の周りを百合の鉢植えで囲みました。切り花では感じない濃厚な香りがホールに漂います。ご近所やご友人たちがお通夜に集まり始めました。会場に入り祭壇を見た全員の口から驚嘆の声が上がりました。
「素敵な祭壇、手作りの花祭壇なのね、こんな百合は花屋さんにも置いていない」
通夜式が終わり、喪主様がマイクを握りました。
「皆様のおかげで、妻は楽しく幸せな晩年を過ごせました。ここに妻が手入れをした百合の植木鉢を持ってきました。咲いている花を愛でたら摘んでください。葉だけになり枯れてきたら根元から切ります。植木鉢の中で球根が大きく育ちます。妻の一周忌の頃同じように、又大輪の花が咲きます。この植木鉢を、お手数でなければ、どうぞお持ち帰りください。皆様のお家で百合の花達が生き続ければ、亡き妻も喜ぶと思います」
20鉢ほどあった植木鉢は、あっと言う間に持ち帰られました。