おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

この金額でお布施ですか

ご寺院控室から出てきたスタッフが顔色を変えて私に近寄ってきました。「お寺様がすぐ来てくれと呼んでいます」なにかとても怒っている様子だと付け加えてきました。私の気がついていない粗相でもあったかなと考えながらお部屋に向かいます。「葬儀屋、この封筒の中身を見てくれ。ちゃんと、喪主に相場の説明をしておくように。あんたの仕事だろ」出された茶封筒を見てピンときました。お布施の金額が少ないのです。茶封筒には「御礼」とボールペンで殴り書きがしてあり中身は、1万円札がたった一枚だけ入っていました。


お葬式にはさまざまな出費がかかります。初めてお葬式を行う喪主様が一番戸惑われて、なおかつ一番解りづらいのがお坊様に支払うお布施です。金額をお寺に直接伺うと大概は「お気持ちで」と答えるのです。仏教の教えでは布施とは「施すとか・気持ちを表す」ことです。僧侶の読経に対して感謝をすることなのです。感謝は目に見えません。目に見えない物は金額にはできません。ましてお寺からも感謝の価格は提示できません。ですからお寺としては「お気持ちで」と答えるのです。この答えでいくら用意するかを理解する喪主様はほとんどおりません。ネットには昨年の全国平均が47万3千円と報告されています。約50万円の出費は結構な金額です。この金額は読経料・戒名料・お車代・御膳料の総合計になります。


宗派によってお布施の金額は変わります。また同じ宗派でも地域によって違います。それ以上にお布施の金額が大きく変動するのが戒名料です。戒名料は位によって金額が異なりますが、30万円~100万円以上の戒名料がかかる場合もあります。


お布施がある程度の金額なのは理由があります。お寺様は亡くなってすぐに呼び出され、布団の脇で行う枕経を唱え、お通夜の場では通夜経、葬儀式での引導読経、火葬場で火葬炉の前で読経、骨上げ後の繰り上げ初七日経と、結構な労働時間と手間を掛けます。なおかつ一着何百万という高価な袈裟を着てきます。当然お寺様にも生活があります。戒名料には宗派元の本山寺院に納める上納金も必要です。


現実はお布施にはそれなりの金額が決められています。お布施があまり高くないと言われる浄土真宗でも釈の法名料を含んで20万円前後です。具体的な金額は寺院に尋ねるのが一番良いのですが、「お気持ちで」と答えた場合は葬儀屋に尋ねてください。葬儀屋は、そのお寺が希望する金額を理解していますから、具体的な提示をします。このごろはトラブルを避けるために金額表の一覧を最初から喪家様に見せるお寺も出てきました。


始めてお葬式を行う喪家様や、若い方でしたら、「お寺にはこの金額が掛かりますが」と葬儀屋から説明をすることが多いのですが、このお家は長期の檀家でしたので、問題ないと思ってしまいました。どうやら、今回亡くなった母親がすべてお寺とのやり取りをしていて、金額は一切聞いていなかったということから、問題発生となったと後から解りました。


遺影写真の出来が良いと、嬉しそうな喪主様に近づき、そっと声をかけました。
「喪主様、お話しがあります。実は、失礼にならないお布施の渡し方ですが・・・」

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