おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

よく見ると仏像は可愛い

立派なガラスケースの中に20㎝程の数々の仏像が並んでいました。火葬が終わり、ご自宅にお骨を49日まで飾っておく「後祭り段」を組み立て始めました。今回のお葬式で喪主をつとめた娘さんとお話がはずみます。「すごいコレクションですね」「10年前に母を送った後、父が始めた趣味です。最初はお寺でもないのに辛気臭いから止めてと言い合いになりました。自分でコツコツと彫ったり、骨董市で買ってきたりして、だんだんと増えました。東京の仏像フィギュア専門店で購入したと見せられた時に値段を聞いて「無駄遣いしないで」と喧嘩になったこともあります」
「その父が亡くなり、これどうしようかしら」


「人が亡くなると死後49日間は、魂が迷っていると言われています。そのため7日毎に7人のお釈迦様に出会い、教えを受けて勉強をして7回合格してから極楽に到着するのです。この仏像の中でどの仏様に会うのか周りに並べてみましょうか」ガラス棚に近づきました。


初七日は不動明王(ふどうみょうおう)です。死後の世界へと旅立つ迷い人が、再び現世に未練を持たないように右手に持っている剣で迷いを切り、左手で握っている縄で亡者を縛って救い、冥界へと引き込む役目をしています。


二七日は釈迦如来(しゃかにょらい)です。修行をしていない亡者に冥界への旅立ちに際して、仏教の祖であるお釈迦様が丁寧に教えを説いてくれます。


三七日は文殊菩薩(もんじゅぼさつ)です。知恵の仏さまです。仏教徒として身につけるべき教養と振る舞いを教え込んでくれます。


四七日は普賢菩薩(ふげんぼさつ)です。たくさんの功徳を備えていて、亡者の煩悩を打ち砕き、悟りの世界へと導いてくれます。


五七日は地蔵菩薩(じぞうぼさつ)です。亡者が間違えて地獄へ落ちてしまった時に、救いの手を差し伸べ極楽浄土へ導いてくれます。ここでの教えに合格しないと、ずっと地獄の暮らしが続きます。


六七日は弥勒菩薩(みろくぼさつ)です。未来の救済の力と如来の力を併せ持った仏様です。亡者に教えを施して、煩悩から救ってくれます。


七七日は薬師如来(やくしにょらい)です。近づいてきた極楽浄土へたどり着くため、疲れた亡者に元気が出る薬を与えて、迷わず進む道を教えてくれます。


お話ししながら骨箱の周りに、ケースから取り出した仏像を一つ一つ並べました。


「どの仏像も同じだと思っていたけど、役割がそれぞれあるのね、こうやって見ると、全員のお顔とポーズが違い、けっこう可愛いのね。お父さん、集めた仏像に囲まれて、極楽に一直線で行けるでしょう。コレクション、役に立ったわね。今までは邪魔だと思っていたけど、大事に飾っておこうかしら」


遺影写真のお顔が少し微笑んだように感じました。


「娘よ。やっとわかったか」

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