おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

最期のお布団は川の字で

享年40歳、仏様は若い母親でした。去年の夏の終わりに全身の癌が見つかり余命3ヶ月を宣告されました。クリスマスまで頑張ろう、お正月まで頑張ろう、節分まで頑張ろう、ひな祭りまで頑張ろうと本人は闘ってきました。今度は母の日まで頑張ると言っていましたが、ついに力が尽きてしまいました。 立礼で喪主のご主人の脇に、小学校4年生の娘さんが並びました。


昨夜、病院にお迎えに伺いました。ご自宅に搬送し、和室に寝かせる準備を始めました。いつも通りに白装束に御着替えをしてもらい、ドライアイスを乗せて防腐処理をして、枕元に経机を組み立て、香炉、花立て、蝋燭立て、お鈴を飾る用意に取り掛かりました。


「葬儀屋さん、今日は何もしないで寝かせてあげてくれないか。部屋の真ん中に寝かせて、両側から私達がはさみます。家族で川の字で一晩過ごしたい」


数か月帰れなかったお家にやっと帰れた仏様でした。この和室はお嬢さんとご主人がずっとずっと願っていた一家全員で横になる寝室でした。


「わかりました。今日は何もせず帰ります」


奥様の寝ているお布団を真ん中に引っ張り、左側にお嬢さんのお布団、右側にご主人のお布団を敷きました。


翌日の午後納棺に伺いました。和室の中央に寝ている奥様は、顔色の変化もなく、腐敗臭も全く感じず、静かに目をつむっておられました。


枕元に真っ赤なカーネーションの花束が置いてありました。


お別れの時間です。棺の蓋を開けた私は花束をほどき、お花の部分を黒盆に載せ、喪主様とお嬢様に差し出しました。抑えた音楽が流れる中、お二人は、真っ赤なカーネーションを、一つ一つお顔の周りに置いていきます。泣き声は聞こえませんでした。ですがお二人の目からは、カーネーションの上に、ポタポタと涙が落ちています。


棺の横に立つ父と娘の手は、お互い、きつく握られていました。
その後、御親族が、祭壇のお花で棺をいっぱいにして蓋が閉じられます。


火葬後、お骨上げ、法要と済み、喪家様をお見送りの時間です。


父親の前を、胸にしっかりと骨箱を抱き、車に向かって歩く気丈な娘さんを見送りながら、


 ……頑張ってください……


と、心の中で叫んでいる、私がいました。

×

非ログインユーザーとして返信する