映画よりすごいですね
数年前に「おくりびと」という映画が評判になりました。
アカデミー賞を受賞していますので、多くの方々の記憶に残っています。
整った顔立ちのお婆ちゃんが、今日の仏様です。
「これより、納棺式を始めます」
興味津々で見守る集団の中から、ささやき声が聞こえてきます。
「おくりびとの映画みたいだね。」
「映画と同じ事を、やるのかな」
「DVDで観たことがあるよ」
私は心の中で
(いやー、困ったなー。映画と比べられても、主人公のモックンにはとても、
なれないけども、いつもと同様に行いますから、)
と、つぶやきながら、仏様に向い始めました。
引取りの時から、気になっていたことがありました。
仏様のお顔の頬にまっすぐな赤痣が、ついています。
人工呼吸器の管の跡です。少しでも長く生きたいという願いで、
痣のつくほど、強く咥えていたのでしょう。
最初にパウダーファンデーションを取り出し、頬をなぞってみました。
冷たく乾いた頬には、なかなかファンデーションが、のりません。
私は、掌にフーと息を吹きかけ、暖めた両手で、仏様の頬を挟みました。
1分、2分、しばらくすると、冷たい頬が、少し緩んだように感じました。
リキッドのファンデーションを取り出し、
掌で延ばしてから、頬にゆっくりと押し当てていきます。
人工呼吸器の跡の痣は、消えていきました 。
納棺を終えた私に、喪主様が声をかけてきました。
「死体をさわる作業は、映画のことだけだと思っていました。
あなたにあそこまで、やってもらえるとは、感激しました。」
棺の蓋を閉めたときに、仏様のお顔が、微笑んだように感じました。