おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

なぜ自殺をするのですか

火葬手続きのために死亡届を受け取ります。右側の死因が記入されている場所に目を留めます。外因死の「自殺」にチェックがついているのを確認し納得します。打合せの時の家族の様子が、どうも、よそよそしく感じた原因が理解できたのです。


喪家様との話し合いは、老衰や病死などで亡くなった場合とは、まったく違う対応になります。自殺という通常では理解できない出来事に最初に驚愕が来ます。その後救いの手を差し伸べることが出来なかった自分と家族に怒りがくるのです。葬儀屋と普通に会話をしているように見えるのですが、後で何を話したのか、まったく覚えていないと話す方が多いのです。


それでも念を押されるのが死因を隠すことです。立ち会っていない親族やご近所に固く口止めがされます。家族の将来を考えると普通に亡くなったと思いたいのです。


人はなぜ自殺をするのでしょう。動物の世界で自殺をするのは人間だけだそうです。
葬儀の仕事に就いてとても驚いたのは、自殺で亡くなる方がとても多くいるのを知った時でした。過去にこのブログでも自死遺体の旅立ちを多数アップしています。


自殺を考える人は死ぬ決心をする前に生きたい気持ちと死にたい気持ちの間で揺れるようです。残された家族は、そのことを知ると、気がつけなかった自分自身を大いに悔やみます。それでも一度自殺を考える人間はずっと自殺願望が続くそうです。精神疾患を持つ人が自殺をすると言われますが、すべての自殺者が精神病患者ではありません。


自殺に至る原因はひとつか、又は単純な出来事から生じた結果ではないはずです。人を自殺へ追い込む要因は複雑なことが多いのです。ストレスを感じる人生の出来事や、周りから受ける社会的要因も自殺衝動の原因になります。


困難な問題を解決する手段で自殺が選ばれます。楽になりたいとの気持ちから衝動的に選ぶようです。ですが自殺は問題処理の適切な手段ではありません。深刻なうつ状態への対応や、苦しい生活状況の解決に対処する唯一の方法でもありません。


自殺は残された家族に大きな影響を与えます。残された家族は、自分が見逃した兆候があったのではないかと戸惑ったり、罪や怒りの感情を引き起こしたり、汚名を着せられたと悩みます。あるいは社会から見捨てられたと思う人も出てきます。


自ら命を断ってしまった人に、遺族の悲しみは直ぐには来ません。最初に来る気持ちは、困惑、怒り、そして、自殺を止めることの出来なかった後悔です。ほとんどの家族は「なぜ」と思うようです。遺書を残していない自殺者は多いですし、遺書が書かれていても残された人は悩み続けます。


自殺する人は、真面目すぎて、几帳面すぎて、優しすぎるのです。これ以上自分が生き続けると、周りに迷惑をかけると考える人が多いようです。
他人には理解できない心の葛藤から、自死を選ぶのだと思います。


火葬炉に飲み込まれる棺にそっと声をかけました。「お疲れ様でした」

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