おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

お墓の中を開けませんか

お寺の境内にあるお墓の納骨に立ち会いました。通常、骨壺のご遺骨をお墓に納める納骨のお手伝いは葬儀屋の仕事にはありません。今回は先日の新仏様のご縁や、急な納骨袋の納品や、不要な骨壺を引き取って欲しいなどのお願いが重なり、急遽、立ち会うことになりました。お墓の中を覗くのは、私も久しぶりの経験です。


お墓には骨壷を設置するための納骨室(カロート)というものが内部にあります。通常、拝石(おがみいし)と呼ばれる板状の石で蓋がされています。重たい石板を持ち上げると、ぽっかりと空間が出てきます。空間と言っても大きなお墓で骨壺が5個程入るといっぱいになります。都市型の小さいお墓でしたら2個程で満室になるかもしれません。こうなるとご先祖様やお爺ちゃん達、親二人がもう入っているから、自分の骨壺が入る場所はあるだろうかと、心配される方がおられると思います。


そもそもお墓は何人まで入るのでしょうか? お墓の納骨室を開けた時、内部が骨壷で満室だったらどうしようと思いますか?


今回、下見をした石屋さんからお寺に「納骨室が満杯なので」と言われたご住職から「お骨を土に返してあげてください」と喪主に連絡が入りました。納骨室の空間を開ける方法は、まず最初に骨壺に入ったご遺骨を納骨袋(木綿や麻の天然素材で作った袋)に入れ替えます。納骨室の底の部分だけはコンクリートで塞いではいません。底の土を少し掘りさげ、その穴に袋を置きます。そして土を少しかけるのです。


古い年代物の骨壺から出されるお骨は、どれもしっかり残っています。死体は年月を経ると分解されて土になるとお思いでしょうが、火葬炉で焼かれたお骨は、ほとんどそのままで残ります。焼かないで土に埋めると微生物が跡形もなく分解してくれるようですが、高温の火葬炉で焼いた焼骨は土に還りません。遺骨の主成分はリン酸カルシウムという無機質になり、微生物のエサとなる有機物が残っていません。火葬された焼骨は、微生物分解が行われず、骨壺の中で永遠に生き残るのです。


しかし、焼いた骨には利点もあります。とても脆くなり、粉状になりやすいのです。骨壺のお骨を袋に移した段階ですと、大きく盛り上がっています。ご住職は棒を手に持ち、御経を唱えながら叩き始めました。嵩(かさ)が張っていた袋の中身が粉状になりペシャンコになりました。つぶれた袋の上に土を掛けて、微生物の力で少しずつ土に返してもらうのです。


歴代のご先祖の骨壺で溢れていた納骨室内は十分に空間が出来ました。先日のご葬儀の新仏様のお骨も納骨袋に移され、土を掛けられた先代の皆様に迎えられました。


お墓の納骨室の中は、先代の骨壷で溢れてしまう時が必ず来ます。自分の骨壺を納める場所が無いと慌てる前に、曾祖父母や祖父母やご両親のご遺骨を自らの手で、粉骨にして、袋に詰め納骨室内に散骨し、土に還す供養をお勧めします。


「これで、何人でも入れるようになりましたよ」
ご住職が参列者に伝えました。すこし嬉しそうに感じたのは私だけでしょうか?

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