小さな遺族の微笑みの時
葬儀並びに告別式の閉式が告げられ、しばらく出棺前のお別れの時間が持たれます。お別れを告げる家族や親族の中には、小学校入学前のお子様が混じる喪家様も多くおられます。高齢の故人になると、ひ孫の参列も珍しくありません。これらの一番、かわいい年代の小さな参列者が、出棺前にハプニングのひと時を作り出すのです。
最後のお別れでお花を棺に入れていました。お孫さんは赤い花を手に取り、横たわっているお婆ちゃんの口にくわえさせました。周りの家族は、びっくりして止めます。
「ダメ、ダメ、口に置かないで、お顔の周りに置いてちょうだい」
小さな見送り人は口をとがらせて反論します。
「お婆ちゃんの写真は、赤い花をくわえているじゃない」
全員がハッと気づきました。お婆ちゃんの趣味はフラメンコでした。自分の部屋の壁には舞台でお披露目したお気に入りの写真がパネルにして飾ってあります。煌びやかなフラメンコ衣装を着て、カスタネットを持った手を上にあげ、口に赤いバラの枝をしっかりとくわえています。
彼はこの写真を覚えていて、その通りにお婆ちゃんを飾ったのです。先日、納棺に伺った時にも、フラメンコの衣装を持たせてくれと用意されていました。
私は助け舟を出しました。
「踊るときにすぐ口に持っていけるよう、手に持たせてあげましょう」
………
もう一人可愛い女の子の話をしましょう。お花で一杯にした棺桶を父親に抱きかかえられて覗き込みました。
「お婆ちゃんにサヨナラをしてあげて」
お顔をなぜた女の子は、急にご遺体にかけてある白い布団を引っ張り上げました。
顎の下までかけていた、かけ布団を、ひたいが隠れるまで引っ張り上げたのです。力を込めて引っ張るので、足先が出てしまいました。周りが止めます。
「止めなさい、お婆ちゃんが可哀そうでしょう」
小さな見送り人は口をとがらせて反論します。
「触ったお顔が冷たいの、寒いのだと思う、お布団をもっと被せてあげて」
周りの大人は答えに詰まりました。
私は助け舟を出しました。納棺の時に愛用の首巻を一緒に入れたことを思い出したのです。
「お婆ちゃんが寒くないように、この首巻を巻いてあげましょう。これで寒くなくなったから、お顔が見えるように、お布団は顎まで下げてあげていいですね」