おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

仏様と一緒に迎える正月

24時間365日休み無しが葬儀屋の仕事です。年末年始もゆっくりは出来ません。前回でお話しましたが、火葬場は公営施設です。年末から三が日にかけてはお休みになります。その期間は火葬が行えません。ですが亡くなる人は待ってくれません。


都市伝説に病院では火葬場が休業しているお正月は、死期が近づいている患者さんに強い薬の延命処置を施し、死なせないようにしているという噂があります。確かに、30日や大晦日には亡くなりましたという連絡が、入りましたが不思議に元日は引き取り連絡の電話が鳴りません。日が変わり2日になるとなぜか電話が入るのです。


もう一つ看取り患者が多く入院している病院で、馴染みの看護師さんが話してくれました。除夜の鐘が鳴り始めると、間もなく亡くなりそうな患者さんの耳元で「もうすぐお正月だからね」と囁くと、一晩は持ってくれるそうです。夜勤の時も「今晩は忙しいから頑張ってね」と囁くとスタッフが出勤してくる朝まで待って、その後急変して臨終になると言っていました。目も開かない、口もきけない、息も絶え絶えの患者さんが、なぜか理解をしてくれるのだそうです。元日に死者が出ないのはこんな理由がありそうです。
人間の身体の機能は耳だけは最後まで生き残ると聞いています。臨終のとき枕元で家族が伝える言葉は最後まで聞こえているはずです。


年末に亡くなった場合は正月明けの火葬炉に入れるように葬儀の手配をします。ほとんどの家族が、松の内(元旦から7日までの、正月の松飾りを飾っておく期間)に葬儀をするのはいかがなものかと考え、家族のみで送ります。親戚やご友人に葬儀の日程を知らせる時も「家族で送りますので参列はお控えください」などの配慮をすると良いでしょう。松の内に葬儀をしてはいけないという決まりはありませんが、世間の祝賀ムードに水を差さないように、家族葬や一日葬でひっそりお別れを済ませて、松の内が明けてから親戚や親しい方を招いて改めてお別れ会を行うこともあります。過去には、先に火葬炉でお骨にしておき、1月の後半に骨箱を祭壇に置く骨葬のスタイルで参列者を呼ぶお葬式をした喪家様もおられました。


年末に亡くなった仏様には正月休み明けの火葬までご遺体を傷まないように気をつけます。しかし1週間以上も外見を変わらず安置するのはなかなか難しいのです。当然毎日のドライアイスの交換が必要です。しかしドライアイスを入れすぎると冬山の凍死者みたいに顔に霜が吹いてしまうので周りの温度に気を使いながら交換していきます。お顔も変色が進まないように頭を少し高くして寝かせます。その時耳元で「お正月なので、もう少し待ってくださいね」と囁くことも重要です。


元日は頑張った患者さんも2日以降は次々亡くなります。こうなると火葬炉の予約が年末からの火葬待ちの仏様と、2日以降の仏様で満杯になります。火葬炉の開いている時間を見つけるのが一苦労です。正月明けは火葬場の職員さんも大変です。


葬儀屋は年末に旅立ち棺桶の中で冷たくなっている仏様と一緒にお正月を迎えます。

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