仏様が助けてくれた検問
病院の霊安室に向かいました。時刻はまもなく日が変わる真夜中です。ご家族は先にご自宅に帰られていて仏様だけが、ポツンとストレッチャーに寝かされていました。警備の方に「○○様のお迎えです」「そこに寝ているよ」「死亡診断書は」「家族が持っていった」
少しだけ嫌な予感がしましたが、問題ないと思い直し、ストレッチャーを積み込みました。
仏様との二人だけのドライブももうすぐ終わります。無事に葬儀会館に着く予定でした。先方に赤いパトライトが点滅しています。前を走る車両のスピードが落ち、渋滞が始まりました。どうやら検問のようです。この季節は飲酒の取り締まりが多くなります。又は事件でも起こったのかもしれません。
検問の旗を振った警察官の所まで車が進みました。
「はい、止まってください。運転手さん、車検証と免許証を用意して」
懐中電灯を車に照らしていたもう一人の警察官が話しかけました。
「あれ?この車、緑ナンバーだけど、タクシーなの?」
「ご遺体の搬送車です」
寝台車や霊柩車などの葬儀屋がご遺体に使う搬送車両はタクシーやトラックと同じ緑ナンバーなのです。
室内を懐中電灯で照らした警察官が
「あの後ろの白いシーツは」
「ご遺体です。病院で亡くなって、運んでいます」
これで「死亡診断書を見せなさい」などと言われたら、会館に電話して、喪主さんから死亡診断書を預かり、ここまで持ってきてもらう面倒なことになるなあと悩み始めました。
車の後部のシーツのふくらみを運転席から覗き見ながら、警察官の顔が曇ります。その時でした。ガタンと音がしてストレッチャーのシーツから、痩せこけた二の腕がダランと飛び出しました。
次の瞬間
「ヒエー」
確かに悲鳴が聞こえました。強面で大柄などちらかです。
「行きなさい」
「えっ?」
「問題ないので。行きなさい」
免許証を手に握りながら再度尋ねます。
「えっ?行っていいんですか?」
「いいから、早く運んであげなさい。仏さんに余計なケチつける訳にいかんだろう。これで呪われでもしたら、たまらん」
何事もなく車が動き出しました。後ろに声をかけました。
ありがとう 仏様。