おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

我子を火葬にしたいので

男性が静かに入ってきました。きちっとした格好の40歳前です。葬儀依頼のようです。


「水子の棺桶を売ってください」


最初はあまり細かくは尋ねません。性別や好みもあるので3個ほどバスケット型の小さい棺桶を並べました。ピンク、水色、白のフワフワのバスケットを持ってきました。


「死産証書か死胎検案書はお持ちでしょうか?赤ちゃんは今どちらに」


「書類は書きましたが持っていません、胎児は病院が火葬すると言って貰えませんでした」


「そうなると火葬許可書が無いので棺桶を火葬する施設が使えませんが」


死産とは妊娠12週以降に胎児が死んだ状態で生まれることを言います。12週未満の死産児の場合は人間とは認められず処分に届け出はいりません。しかし通常の廃棄物とは分けて、専門業者が尊厳をもって処理をします。死産は人間として認識された状態のことで、流産は認識される前の状態のことを言います。


妊娠12週以降から22週未満までは死産の扱いになります。7日以内に死産届を提出します。死産届が受理されると死胎火葬許可が出て火葬炉で焼却が出来ます。


22週以降は赤ちゃんが誕生後亡くなった場合は、出生届の後死亡届になります。出生か死産かの判断は産科医師がします。また妊娠24週を超えている場合は24時間安置してからでないと火葬することはできません。


今回のケースが12週以前で流産だったか、12週以後でも胎児の引き渡しが難しい状態だったかはわかりません。


「棺桶を持ち帰られても、火葬許可証が無いと火葬施設は使えませんが」


「いいんです。妻の身体が治ったら、必要なくなった産着を入れて、迷惑の掛からないキャンプ場にでも行って、焼いてあげたいんです」


「これがわが子です。棺桶に入れて送りたい」


こう言って財布から大事に散りだしたのは胎児のエコー写真でした。


「もう妊娠は難しいかも。せっかく我々を選んでくれた、わが子をしっかりと送りたい」


これ以上細かい内容を聞くのは止めました。エコー写真をそっと入れた白いバスケットを抱えた父親を静かに見送りました。
女性が胎児を育み無事に出産するのは奇跡なのです。

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