おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

蓋が開かないようにして

顎にお髭を蓄えたお爺ちゃんを、棺桶に寝かせました。故人は小学校の校長先生だったそうです。教育指導に厳しく家庭でも厳格な父親でした。孫にもお片付けと整理整頓を厳しく教えていたそうです。蓋を持ち上げてそっと置き棺桶を閉じました。


「明日お迎えに上がります。今夜はお棺の見守りをお願いいたします」


納棺を母親の後ろに隠れて覗いていた男の子がいました。小学校低学年だろうと思われます。お母さんに何か囁いています。母親は亡くなったお爺ちゃんの娘です。


「葬儀屋さん、蓋を開かないようにくぎ打ちをしないのですか?」


久しぶりの質問でした。「棺のくぎ打ちは残酷」とか「静かに寝ているのに、上からくぎを打つのは失礼」との意見もあり、くぎ打ちをしない葬儀屋が多くなりました。


少し前まで必ず行っていた棺桶のくぎ打ちには、理由がありました。現在の棺桶の蓋には溝が切ってあり、はめるとしっかりと固定されます。ひと昔前の棺桶の蓋は一枚板を上に乗せる形式でした。くぎで打ち付けて固定していないと、運ぶ途中で蓋が動いてずれてくるからです。
他にも、蓋が外れて死体との接触が起きると病気に感染する危険性があります。感染症を防ぐために棺桶の蓋を、くぎでしっかりと閉めてご遺体との接触を避けたのです。また古来より日本独自の信仰として広まっていた神道では、死を穢れとして扱います。しっかり封じないと死霊となってしまうとおびえ、蓋を絶対開けないようにと固く閉じたのです。


大切な家族を失ったとき、遺族がその事実を受け入れるまでには時間がかかります。くぎ打ちは、中から開かないようにする、ある意味残酷な儀式です。くぎを打ちつけながら、亡くなった方が二度と帰らぬ人であることを認識して、別れを実感する大切な時間とも言えます。


くぎ打ちの道具もかつては小石でした。喪主から血縁の濃い順に、棺の頭の方から小石で一打ちずつ打っていきます。小石を使ったのは三途の川の石からきています。
全員で形だけ打った後は、葬儀社のスタッフが金槌でしっかり止めていきます。


冒頭の質問に答えました。


「くぎ打ちをご希望ならば金槌とくぎを用意してあります」


「子供がドラキュラの映画を見たらしく、夜中に蓋が開いたら、お爺ちゃんが出てくると怖がっているのです」


「了解しました。蓋が動くとお爺ちゃんがゆっくり眠れません。皆さんで、しっかり止めて、休めるようにしてください」


最初の一撃は、お孫さんの力いっぱいの、一振りでした。

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