おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

霊柩車は緑ナンバーです

「これより火葬場へ向かいます」霊柩車のホーンが長々と鳴らされます。まるで棺桶の中の故人が参列者に向けて、「さようなら」と叫んでいるようです。出棺時、霊柩車が長くホーンを鳴らす意味には諸説があります。


わかりやすい説明が「故人からのお別れの挨拶として鳴らしている」という言い方です。中には葬儀を行った菩提寺が出発の時にお寺の鐘楼の釣り鐘をついていたので、お寺の無いところでは代わりにホーンを鳴らすようになったという説もあります。その他、海上で死者を海に流す時に鳴らす汽笛からきているとか、軍隊が死者を悼む時に空に向けて撃つ空砲の代わりとか、葬列が出発する時刻を告げた一番鶏の鳴き声の代わりなどという説もあります。


霊柩車のナンバープレートは緑地に白でナンバーが描かれた、いわゆる「緑ナンバー」です。国土交通省の認可が必要な事業社の営業車に使われるナンバーです。運送業者のトラックや街を走るタクシーなどがつけています。霊柩車には一般乗用車と異なる法令上の違いがあります。法令上は「霊きゅう自動車」として区分され、遺体を葬儀場から火葬場まで運ぶ特殊用途自動車という位置付けです。


亡くなった方の遺体は、人ではなく貨物に該当します。そのため、遺体を搬送する葬儀社は「一般貨物自動車運送事業(霊きゅう限定)」という認可を受ける必要があります。ドライバーは第一種普通免許で運転可能です。タクシーと違い人間を運ぶのではなく、貨物(ご遺体)を運ぶからです。しかし事業者が指名したドライバーでなければいけません。貨物自動車運送事業法の法律で管理されるので、普通のトラック運送事業者と同じように乗務等の記録日報や点呼記録簿、運転者台帳の作成などの帳簿をそろえたり、運転者適性診断の受診や毎年の事業報告書、事業実績報告書の提出などをしたりする必要があります。そして車体に「限定」と表示しなければならないとか、営業区域が原則、都道府県内に限定されるなどの制約もあります。


霊柩車の所有は初期投資が一台一千万近くかかりますし、運行管理が面倒なので、大手を除くほとんどの葬儀社は専門業者を葬儀時に雇います。


小さい頃に「霊柩車を見たら親指を隠せ」と言われたことはないでしょうか。「親の死に目に会えなくなるから」などがその理由と言われていますが、なぜ親指を隠さなかったら不幸が起こるのでしょうか。この迷信は、親指という部位の名前から親のことを連想して死に目に会えなくなると言うこじつけのようです。


昔の日本人は恐れることがあると、悪霊が侵入しないように親指を隠していたそうです。親指の爪の付け根には、魂の出入りする道があると信じられていたからです。霊柩車を見ると親指を隠すという迷信はこの風習から来ており、地域によっては「救急車を見ても親指を隠せ」と教えているところもあります。


昔と違い見た目が判りにくくなった霊柩車ですが、町中ですれ違ったら故人の冥福を祈り、ついでに手を握って親指を隠し悪霊退散を願ってください。

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